2015年12月28日

全天で最も強い電波星:太陽を探る

2015年5月の本Blogでは、福島県飯舘村に設置している私達の大型電波望遠鏡 (IPRT)では、木星から到来するシンクロトロン電波を観測し、木星の放射線帯にある高エネルギー粒子の性質を探っていることを紹介しました(http://pparc.gp.tohoku.ac.jp/ourlab/2015/05/post-2.html)。この木星起源の電波はテレビや携帯電話などの電波に較べてとても弱く、そのために大型の電波望遠鏡で観測する必要があることもお話しました。

ところで、唐突ながらここでクイズ第1問、このIPRTを用いた電波星:木星の観測は、一日の中で、いつ行われているでしょうか? 「星の観測なのだから夜!」、、、正解です。「・・・あれ!?、光じゃない電波の観測なのに夜なの?」、と思われた方はいませんか? そう、確かに電波観測は昼でも出来るのですが、IPRTでの木星の観測は夜に行われます。この理由は、光と同じように、昼間は電波でも太陽が明る過ぎて、木星電波の観測に大きな影響を与えるからです。ただし、光では、昼間は太陽の光で空全体が明るくなり(光の散乱)、星が見えにくくなるのに対し、電波では空全体が明るくなるために木星が見えにくくなる訳ではありません。電波望遠鏡で見上げた空は、電波望遠鏡の正面方向が最も良く見えますが(主ビーム方向)、正面方向の周りにも所々に、ある程度良く見える方向が存在します(サブビーム方向)。このサブビーム方向に太陽が入り込むと、微弱な木星電波に見掛けの変化が生じ、正確な観測が出来なくなるのです。このため、木星電波の観測は夜(正確には日没後)に行っています。そして、日中は毎日、強力な太陽電波を観測しています。

今回は、この太陽から放射されている電波について紹介したいのですが、ここでクイズ第2問、木星電波の観測にとっては厄介な存在の太陽電波、木星電波に対してどのくらい強いでしょうか? 答えは、私達の観測している電波の波長(約1m)では、ざっと1万倍~1000万倍!の強さがあり、実は太陽は全天で最も明るい(強力な)電波源なのです。太陽の電波には二つの種類があります。一つは、光で見える太陽と同じ、6000度弱の太陽の表面(光球面)から放射される成分(熱的放射)で、その強度は木星電波の1万倍ほどで殆ど変化しません。もう一つは太陽面の爆発現象(フレア)などに伴って出現する成分(非熱的放射)で、その強度は強いものでは木星電波の1000万倍にも達し、ミリ秒~数日の時間スケールでの様々な変化を示します。この「非熱的放射」は、太陽の周囲に存在する数10万~数100万度の大気(コロナ)中を飛び回る高いエネルギーを持つ荷電粒子(プラズマ)が源になって放射されるもので、フレア発生時などにコロナ中で比較的短時間に次々と加速される荷電粒子の様相を反映しているものと考えられています。私達は、この粒子の加速が、どんな環境の下、どんなタイミングで、どのように起こっているかを、太陽電波の観測から探ろうとしています。
私達が現在、特に関心を持っているのは、太陽電波に含まれる微細な変化成分です。この成分は粒子の加速状態の基本的な単位を反映している可能性があります。この微細な成分を捉えるために「AMATERAS(あまてらす)」という名称の特別な装置(高時間・高周波数分解スペクトル分析装置)を開発し、IPRTと組み合わせて太陽電波の観測を行っています。下図は、2013年11月7日に発生したフレアの際に、この装置で取得した約12分間の太陽電波の周波数スペクトル変化です。12.6~12.67時付近に出現した立て筋状の周波数スペクトル変化は3型、その後の12.67~12.76時付近に出現した、3型よりゆるやかな周波数スペクトル構造は2型と呼ばれる太陽電波のバースト現象です。

(三澤浩昭)

misawablog.png

図.日本時間2013年11月7日12時34分に発生した太陽フレア時にIPRT/AMATERASで観測された太陽電波現象

[BACK TO TOP]

2015年12月 8日

スロットが埋められる!

地球を取り巻く放射線の帯は、発見者の名前をとって、バンアレン帯と呼ばれています。この放射線帯は、図に示しているように、内帯(地球に近い側)と外帯(地球から遠い側)に分離していて、その間の領域はスロットと呼ばれています。

スロットの存在する1万5千キロメートル付近の高さは、中軌道と呼ばれ、静止軌道より少ない衛星数で地球全体をカバー出来る利点があります。さらに中軌道は、スロット領域に対応する事から、放射線量が少ない点もメリットです。

このスロット領域は、次世代のGPS衛星が送られる領域として注目を受けていますが、私達は、JAXA衛星の放射線粒子の詳細な観測から、スロットが「外帯からの放射線粒子の流入によって埋められてしまう」という事を見出し、これが起こるのは、非常に大きな磁気嵐の発生時である事を明らかにしました (Sun and Geosphere, 印刷中)。

増加量は、通常のレベルの1万倍にも達する事があり、人工衛星は危険になります。現在、宇宙天気予報によって、磁気嵐の発生は、1~2日前に分かるようになりました。今後は、スロットの放射線増加量を精度良く予測する事が、必要になっています。
(小原隆博)

vanallen.jpg

放射線帯の2重構造(内帯と外帯) (イラスト提供:フリーマン教授)

[BACK TO TOP]

2015年10月22日

SGEPSS秋学会・アウトリーチイベント

来週末から東京大学で「第138回 地球電磁気・地球惑星圏学会 総会および講演会」が開催されます(「SGEPSS」「秋学会」と言われることが多いようです)。今日は学会に向けた全体のリハーサルが行われました。後一週間程度ですが、頑張っていきましょう。

因みに、秋学会では毎年学会期間中に一般向けのイベントを開催しています。今年は「トークショー」・「はかせと実験」・「おしえて☆はかせ」など盛りだくさんなイベントとなっています。詳しくはこちらを参照ください→きょう、地球をキミの手に!宇宙をキミの手で!

写真 2015-10-22 17 27 17.jpg

これは当日実際に作成するラジオです。かなり簡素な見た目ですが、きちんとラジオを聞くことができます!

(北)

[BACK TO TOP]

2015年10月 9日

太陽からの中性子を観測しています

先刻、太陽からのニュートリノ(中性微子)の観測で、東大宇宙線研の梶田所長が、今年のノーベル物理学賞を受賞されました。大変、喜ばしい事と、思っております。

私達は、太陽からの放射線粒子や中性子の観測を、国際宇宙ステーション・日本実験棟(きぼう)の暴露部で、2009年から行っています。図の左端・先端の部分に飛び出ているのが、私も担当している、宇宙環境計測装置(SEDAと言います)です。

人工衛星や宇宙飛行士が活躍する宇宙空間は、とても危険な空間です。そこには、宇宙放射線(太陽から来る放射線、遠い銀河からやってくる銀河宇宙線、地球の磁場に補足されたバンアレン帯の放射線粒子)に満ち溢れています。そして、プラズマ、原子状酸素、スペースデブリもあり、これらは人工衛星や国際宇宙ステーションに危害を及ぼしています。

宇宙環境が原因となる宇宙機障害は、障害全体の1/4と言われています。そのような背景で、人工衛星が故障を起こさないよう、宇宙飛行士が、危険な放射線の被害に遭わないよう、宇宙環境モニター装置で宇宙放射線環境を監視しています。

幾つかの新しい発見もありました。詳しくは、別の機会に譲りたいと考えていますが、400km高度での、宇宙環境の連続観測は始めてです。2009年からの数年間にわたるゆっくりとした時間変動も観測されています。太陽の11年周期の変動に依存して変化している宇宙環境もありました。

まだ数年間のデータですが、宇宙環境モデルの更新データに利用されはじめています。今後、数年先まで観測を継続し、太陽の全活動周期(11年)に対応した宇宙環境データの取得にチャレンンジしたいと考えています。

(小原隆博)

seda.jpg

きぼう暴露部先端に取り付けられた宇宙環境計測装置 ?JAXA提供

[BACK TO TOP]

2015年9月20日

ハワイ・ハレアカラ観測所の天気

ハワイ・ハレアカラ観測所は、マウイ島ハレアカラ山頂(海抜3040m)にあります。2015年9月に60cm望遠鏡を移設、設置してから約1年が経過しました。この間、いくつかの観測装置を用いて連続観測を実施してきましたが、いつも気になるのは、観測中の天気です。観測ドーム脇に設置している気象観測装置等で測定した風速、湿度をもとに、一定の条件を満たさないと観測ドームを開けることができません。一体どれくらいの期間ドームを開けることができるのか気になったので、同じ観測所にある40cm望遠鏡サイトの過去5年分の気象観測データを解析してみました。

fig1a.png左上の図は、温度と相対湿度の時間別平均値を示しています。日中の湿度は、明け方から午前中が低く、午後は高くなっています。この結果は現地で作業していても、午後は観測所が雲に覆われることが多いこととも符合します。夜間の湿度は気温と反相関する傾向がよく表れています。

fig2a.png 左下の図は、1時間ごとの最大湿度が80%未満となる時間の割合を、月別に表したものです。相対湿度が80%未満であれば必ず晴れているというわけではありませんが、観測可否の一つの目安であると言えます。冬季は比較的天気が悪く、特に2月、3月は冬の嵐の影響で、積雪や観測所が閉鎖されることがあります。それでも、年間平均で約70%の時間を観測に充てることができるサイトはとても有用です。(鍵谷将人)











[BACK TO TOP]

2015年8月21日

ひさき衛星、土星観測中

 JAXA宇宙科学研究所の極端紫外線宇宙望遠鏡、ひさき衛星は、2013年にイプシロンロケット1号機で打ち上げられてから間もなく2年。現 在は土星のオーロラと、土星の周りを回っている衛星の一つ、エンケラドスから噴き出したガスを観測中です。

 土星と木星にはたくさんの衛星があ ることが知られていますが、それぞれの衛星がとてもユニークです。木星の衛星イオは活発な火山活動があり、火山起源のガスがイオの大気から宇 宙空間に流出し続けています。ひさき衛星も、2015年の1月にイオの火山活動が活発になり、宇宙空間への流出量が数か月間に渡って増える様 子を発見しました。木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスから噴き出しているガスは水です。木星や土星の周りを回る衛星は、潮汐力のた めに内部に発熱があり、氷の表面の下に液体の水が存在すると考えられています。生きている衛星たちの謎を解明すべく、研究室の学生の皆さんと奮闘中です。

 ちなみに、ひさき衛星はガイドカメラを搭載していて、惑星の光(太陽の反射光)を撮像して惑星の位置を把握しながら観測しています。金星や木 星に比べると、土星は太陽から遠い分だけ惑星の明るさが暗くなります。カメラに映る土星の位置を衛星の機上ソフトウェアで自動判定するため に、衛星にコマンドを打ちながらソフトウェアの処理を調整して何とか観測にこぎつけました。

(土屋史紀) 

saturn_fov.png

ひさき衛星のガイドカメラが撮影した土星。リングも光っているので横長です。

[BACK TO TOP]

2015年7月27日

飯舘観測所の現況2:「除染が実施されました」

 2015年5月5日付けの当ブログで、飯舘観測所も除染実施間近、とお知らせしました。この除染作業が5月末から一月半ほどかけて行われ、7月中旬に終了いたしました。複数ある観測棟の外壁や屋根は拭き取り、下回りは高圧洗浄を実施頂きました。観測棟や大型電波望遠鏡の周囲や場内の通路は、表土除去の上、客土(砕石敷設)を実施頂きました(写真1)。また、観測所は国有林内の起伏のある土地に設置していますが、傾斜地は草類を剥ぎ取り頂くとともに、落葉等の堆積物も除去頂きました(写真2)。

 飯舘観測所では、2011年3月の福島第一原発事故発生後約一ヶ月の4月下旬から、所内の数カ所で定期的に空間放射線量のモニタリングを行ってきました。今回、除染を実施頂いたことで、空間放射線量は除染前の大凡3分の1に低下いたしました(図1)。観測所作業等が安心して行えるようになったことを、関係者一同、大変感謝しております。

 末筆ながら、この場をお借りして、今回の観測所の除染実施にあたり、細やかなご配慮を下さった環境省と特定建設工事共同企業体(JV)のご担当者の皆様、蒸し暑い梅雨空の下、広い除染対象箇所を丁寧に作業を実施下さった沢山の皆様に篤く御礼申し上げます。

(三澤浩昭)

iitate01.jpg

写真1.大型電波望遠鏡周囲の除染作業の様子。表土の除去と客土を行って頂いています。

 

iitate02.png

写真2.観測棟北側斜面の除染作業の様子。草類の剥ぎ取り・除去が終了したところです。

iitate03.png

図1.東北大で計測した飯舘観測所の地上1m空間放射線量の経時変化(6定点の平均値)。

[BACK TO TOP]

2015年7月13日

あけぼの衛星の26年

akebono.jpg

 「あけぼの」衛星は、今年の4月23日に運用を停止しました。運用停止の原因は、観測機器の劣化、衛星電源系機器の劣化、衛星高度の低下などで、十分な科学的成果をこれ以上出すことが難しい状況でした。

 1989年2月22日に打ち上げられてから26年2か月という長期間にわたり、オーロラ現象や放射線帯などについて、長期の観測を行い、重要な成果をあげてきました。

 「あけぼの」衛星の挑んだオーロラは、研究の歴史は長いのですが、人工衛星の時代になって、その謎が解かれ始めました。宇宙から高速の電子が地球の大気に衝突し、きれいな光が発せられます。「あけぼの」衛星は、オーロラ電子の加速機構、オーロラ現象の出現と発達過程を調べました。

 「あけぼの」衛星は、私が宇宙科学研究所に入所して初の仕事で、私は現場の担当でした。製作、組み上げ、環境試験、そして運用とデータ処理と、一通り携わりました。

aurola2.jpg

 私自身も、オーロラの研究に携わりました。普段、宇宙から見たオーロラは、磁極を中心に楕円(だえん)を描いていました。オーロラオーバルという呼称を与えられ、その輪が時々爆発的に輝いたり、大きくなったり、見ていてとても魅了されました。

 時々、そのオーバルに中に、一本の筋が入りました。ギリシャ語のθ(シータ)に似ているので、シータオーロラと名付けられました。

 東北大学の私達のセンターでも、オーロラ研究が盛んです。昭和基地に越冬したり、アラスカに観測に出かけたりしています。

 宇宙からの神秘の光であるオーロラ、その中に、女神を見るのは私だけでしょうか。(小原隆博)

[BACK TO TOP]