2019年9月21日

世界最大のHF~VHF帯電波観測装置"NenuFAR"訪問 (2019/9/19-20)

(文責:三澤)
2019年9月19,20日に、フランスのパリ天文台が開発を進めている世界最大[1]のHF~VHF帯アレイ式電波観測装置"NenuFAR[2]"(nenufarは、スペイン語で"睡蓮"の意味。地上に多数展開されたそのアンテナ群はまさに湖上に並んだ睡蓮のよう!?写真参照)を、C領域4名のスタッフが訪問しました。NenuFARは周波数10~85MHzの自然電波を観測することを目的に開発されているアンテナ・アレイで、直径2mほどの小型アンテナが完成時には1800個以上並び、その総有効開口面積は30MHzでは62,000㎡にもなる、この周波数帯では世界最大1のアンテナです。このアンテナは、パリの南約200kmにあるNancay観測所で建設が進められており、今年の7月からは早期運用が始まったところです。Nancay観測所は、広大な敷地に10MHz~3.3GHzを観測する多様なアンテナ群が展開されており、NenuFARはその中でもっとも低周波数且つ最大のアンテナです(Nancay観測所の特筆すべきはその電波環境(光環境も!・・・見事な天の川にも遭遇・・・)の静かさ! 携帯電話なぞ繋がりません・・・色々な意味で羨ましい・・・)。

今回の訪問は、日本の自然電波研究グループと長年の交流のあるパリ天文台でNenuFARプロジェクトを率いているPhilippe Zarka博士のご好意により実現したものですが、この訪問の目的はNenuFARでどのような、また、どのようにして国際共同研究を行い得るか、を議論するためです。9月19日にはパリ市内にあるパリ天文台で議論、その夕方にZarka博士自ら運転する車に同乗させて頂きNancay観測所に移動、9月20日はNenuFARの見学を挟んで朝から夕方まで議論を行いました。NenuFARは、地球電離層での反射・屈折を受けずに地球外からの到来電波が地上に到達出来る最低周波数である10MHzから観測出来ます。NenuFARの大口径アンテナで実現する、電波天文学的には極めて低いこの周波数での高感度観測は、私達C領域で長年の研究がなされてきた太陽系内の惑星・衛星や太陽に関連する微弱な電波を用いた研究は勿論、更には太陽系外の惑星や電波天体の研究等にとって、非常に魅力的です。

現在、世界の電波天文の観測分野では、50MHz以上での観測が可能な広大なアンテナによる国際共同観測研究プロジェクトSKA(Square Kilometre Array)が実現に向けて進行中であり、日本でもこのプロジェクト参画に向けた動きが始まっています。一足先に早期運用に入ったNenuFARはSKAよりやや低い周波数帯をカバーする装置で、科学目的面でも接続性・共通性を持っています(NenuFARはSKAの公式なPathfinderプロジェクトとしてSKA機構に認知されています[3])。私共は、高感度の電波観測での研究に関心を持つ多くの日本の電波観測者の方々とともに、フランス・パリ天文台が心血を注いで開発を進めてきた、電波観測研究の未来に繋がるこのNenuFARプロジェクトに如何に関わってゆけるかを更に考えてゆきたいと思っています(NenuFARに関心を持たれた皆様、私共にご連絡下さいますようお願いいたします)。

文責:三澤(電子メール:misawa_at_pparc.gp.tohoku.ac.jp)

・[1]:偏波特性を計測出来るアンテナとして世界最大。偏波特性とは、電波の持つ情報の一つで、電波の発生起源や、電波の伝搬路の特徴を伝える。

・[2]:NenuFARのwebサイト:https://nenufar.obs-nancay.fr/en/homepage-en/

・[3]:参照先:https://www.skatelescope.org/news/french-nenufar-telescope-granted-ska-pathfinder-status/

パリ天文台Nancay観測所に展開されているNeneFARアンテナ群。

NenuFARは19素子からなるMini Arrayの集合体。MiniArrayの信号合成部の説明を受ける東北大スタッフ(右側の3名)。左から2人目がNenuFARプロジェクト責任者のZarka博士。

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2019年9月8日

カナダとアラスカで宇宙からの高エネルギー電子を測る (2019/8/25-9/7)

(文責・平井、土屋)
アラスカやカナダに行くとオーロラを見ることができますが、宇宙から地球の大気に降り込んでくる超高エネルギー電子を観測するのにも最適の地です。大気に降込む超高エネルギー電子はオーロラのように目で見ることはできません。その代わりに、地表から標高60km-90kmの地球の大気を電離させるので、電離層を反射する低周波電波を使うと観測することができます。

8月25日~9月7日に土屋と平井で、カナダとアラスカに行きました。目的は、低周波電波受信機とアンテナの設置及びメンテナンスです。

前半の1週間の行き先は、装置の新規設置のため、カナダのマニトバ州にあるピナワです。ピナワには、カナダ宇宙庁が運用・管理している地上観測サイトがあり、すでに磁力計やリオメーターが設置されています。設置作業は、現地のエンジニアの方に協力していただき、予定通りの日程で設置することができました。設置後、データを取得できていることを確認し、ピナワでの任務は無事終了しました。今回初めてゼロから装置の設置を経験しました。ピナワで得られたデータで新しい発見を目指します!

後半はアラスカに移動しました。アラスカのフェアバンクスには、既に電波受信機やアンテナが設置されています。当初は、観測ソフトウェアの更新と校正作業のみを行う予定でしたが、行ってみるとアンテナを支えるロープが切れて、アンテナが傾いていました!予定を急きょ変更して屋外でのアンテナ修理作業からはじめ、予定していた作業をすべて日程内に終えることができました。

今回の出張では、アラスカに到着した日の夜にオーロラを見ることができました。今回見られたオーロラは、あまり激しいものではなかったので、ぜひ次機会があればブレークアップを見たいです。(オーロラの写真はぼやけてしまったので、今回は載せないことにしておきます...。)

ピナワの観測サイト。まだなにもありません。作業中の土屋とエンジニアのBrendanさん。

設置完了したループアンテナ。

普段の研究で使用しているデータを取得している誘導磁力計を見せてもらいました。

中にコイルが入っています。ファラデーの法則(コイルを貫く磁界が変化すると起電力が発生する)に従って、地磁気変化を計測しています。

アラスカのモノポールアンテナ(修理後)。柵を新設。

アラスカは紅葉の季節でした。とってもきれい!

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2019年9月3日

多波長観測で捉えた木星の嵐 ~ すばる望遠鏡赤外線カメラによる観測 (2019/9/3)

(文責: 笠羽)

東北大PPARCとNASA/JPLのメンバーで行った2017年1月の国立天文台・すばる望遠鏡による木星中間赤外線観測は、世界的な木星観測キャンペーンの一翼を担いました。この観測で、木星大気を吹き荒れるストームの3次元構造を分解し、地球の赤道域でも見られ、台風の機構としても知られる「湿潤対流」で説明できることを明確に示しました。

今回の成果は、アルマ望遠鏡による干渉計観測を軸になされたもので、すばる望遠鏡の他にもNASAハッブル宇宙望遠鏡、米ジェミニ北望遠鏡 8-m、WMケック望遠鏡10-m、欧VLT 8-mという世界最大級の望遠鏡群が参加しています。電波?可視光に跨る多波長観測は、嵐を高度方向に分解してその3次元構造の解明を可能とします。惑星探査機では困難ですが、他惑星の大気現象を地球と比較するには必須の手法であり、この効果を示す素晴らしい例となりました。

本研究は、他に国立電波天文台(NRAO)、NASA/GSFC、クレムソン大、メルボルン大、レスター大の共同で行われました。この成果をまとめた論文は、Imke de Pater(UC Berkeley)を主著者としてAstronomical Journalで出版されます(暫定的にオンライン公開中: https://arxiv.org/abs/1907.11820)。

我々が観測を行ったすばる望遠鏡の中間赤外線観測装置COMICSは、2020年7月末に運用が停止されます。日本がこの分野へなせる貢献機会が限られてしまうことが残念ですが、それ以上にこの停止は「大望遠鏡に常設される中間赤外観測装置」がなくなることも意味します。この波長帯は重量・電力等が限られた探査機での観測が難しいため、現在木星を周回中のJuno探査機では観測がなく、地上観測による補完が期待されていました。

20190903_10.png

すばる望遠鏡中間赤外線カメラCOMICSが捉えた木星。明るい部分がアンモニア氷雲(a)。大赤斑(GRS)やオーバル(BA)は定常的な巨大構造とともに、各矢印が示す白斑・暗斑といった木星の巨大嵐が見えています。(Imke de Pater et al.)

  

ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたRGBカラー図との比較(Imke de Pater et al.)

<Links>
東北大・理サイト  --  
http://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20190903-10422.html

国立天文台すばる望遠鏡サイト -- 
https://subarutelescope.org/Pressrelease/2019/08/23/j_index.html (日) 
https://subarutelescope.org/Pressrelease/2019/08/23/  (英)

国立天文台アルマ望遠鏡サイト -- 
https://alma-telescope.jp/news/jupiter-201908 (日) 
https://alma-telescope.jp/en/news/jupiter-201908  (英)

UC Berkeleyサイト 
https://news.berkeley.edu/2019/08/22/storms-on-jupiter-are-disturbing-the-planets-colorful-belts/
https://news.berkeley.edu/2016/06/02/new-radio-map-of-jupiter-reveals-whats-beneath-colorful-clouds/

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2019年8月 2日

オープンキャンパス2019

今年も7月30日、31日の2日間、東北大学のオープンキャンパスが行われました。 今年も昨年に引き続き、理学部キャンパスの最奥となる物理A棟4階を会場として、宇宙地球物理学科・地球物理学コースのブースにおいて、 大学院生や教員による日頃の研究の説明や体験コーナーを設けたりしました。 地球物理のブースには、2日間でのべ1200人を超える方々にご来場いただきました。大学進学を控えた近隣の高校生だけでなく、 研究室配属を控えた学部生や家族連れの方々に足を運んで頂き、大変ありがとうございました。 (鍵谷)

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2019年7月24日

研究会開催:機械学習とデータ同化による木星磁気圏のダイナミクスの理解

統計数理研究所
データサイエンス共同利用基盤施設研究集会 

「機械学習とデータ同化による木星磁気圏のダイナミクスの理解」

開催日:7/27 (土) - 28(日)
場所:東北大学理学部 合同C棟2F N204(多目的室)

プログラム:
7/27(土) 

1030-1045
   吉川一朗・吉岡和夫 「ひさき衛星について(観測装置の紹介)」
1045-1115
   Lee Jongyeong 「PU深層学習による故障後のひさき画像の分類」
1115-1145
   木村智樹 「HISAKIの実データへの機械学習手法の適用」
1145-1215
   手嶋毅志 「上限つきRAE画像のベイズ推定」

1300-1330
   土屋史紀 「木星磁気圏一般のイントロダクション(惑星科学者の問題意識)」
1330-1400
  (手嶋毅志、鈴木文晴)「自然科学への機械学習導入のためのチュートリアル」
1400-1430
   鈴木文晴 「Non-linear ICAを用いたオーロラ-IPTの増光イベントの因果推定」
1430-1500
   加藤真大(代読) 「距離による誤差項を考慮したオーロラ-IPTの相関解析」
1500-1600
  (Free discussion)「惑星科学と機械学習の融合に向けて」

7/28(日)

午前:(Free discussion)「惑星科学と機械学習の融合に向けて」

問い合わせ先:土屋史紀(東北大学)

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2019年7月11日

吹澤 瑞貴さん、高見 康介 さん、中村 勇貴さん:日本地球惑星科学連合2019年大会学生優秀発表賞

(2019/7/10)

当センターの吹澤 瑞貴さん(D1)、惑星大気物理の高見 康介 さん(D3)・中村 勇貴さん(M2)・が日本地球惑星科学連合2019年大会において学生優秀発表賞を受賞しました。

■URL :http://www.jpgu.org/ospa/2019meeting/

■吹澤 瑞貴 (D1:PPARC)   "Correlation between pulsating aurora and electrostatic electron cyclotron harmonic waves obtained from coordinated Arase and ground data"。
本学が参画するJAXA あらせ衛星が観測した「電子波動」とそれによって引き起こされるとみられる「脈動オーロラ」の関係を明らかにしました。

■高見 康介 (D3:惑星大気)  "Temperature and wind variations in Venusian mesosphere and lower thermosphere by mid-infrared heterodyne spectrometer in 2018"
本学が開発した赤外線ヘテロダイン分光器が可能とできる金星高層大気の温度場・速度場を、2018年の観測好適期に東北大・ハレアカラ60cm望遠鏡をフル活用して検出することができました。

■中村 勇貴 (M2:惑星大気)   "Axisymmetric conductivities of Jupiter's middle- and low-latitude ionosphere"
観測から推定される木星の電離圏電気伝導度がとても低いという問題に対し、惑星間空間から落下するダストの電離によって供給される金属イオンの効果を取り込むと十分な伝導度を持たせることができる、というユニークなモデル研究成果を挙げました。

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2019年7月10日

仙台市天文台公開サイエンス講座にて「太陽とオーロラの関係」を紹介しました

仙台市天文台と東北大学理学研究科は、コラボレーション企画として、年間4回の公開サイエンス講座を行っています。今年度第1回目のイベントとして「オーロラの謎に迫る」と題して、最先端科学で明らかにされつつある、オーロラの発生の仕組み、その原因である太陽表面の爆発現象を、画像と動画を用いて、小原隆博が解説しました。ご来場の70名の皆様から熱心な質問を頂き、関心の深さと大きさを感じました。今年度のこれらかの公開サイエンス講座で、当センター所属の教員が、太陽系の惑星研究について、実験も取り入れつつ、解説します。引き続き、仙台市天文台での公開サイエンスに講座に、ご注目下さい。

(文責:小原隆博)

会場の様子

講演の様子

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