2016年6月24日

木星放射線帯電波のキャンペーン観測

 2015年5月の本欄のブログで、私達は福島の大型アンテナを使って木星から到来する電波をキャッチし、その「放射線帯」を探っていることを紹介しました。また、「太陽紫外線の変化が木星放射線帯に影響を及ぼしている」ことも紹介しましたが、最近の研究から、太陽紫外線以外にも木星放射線帯に影響を及ぼす他の「何か」もありそうだ、ということも分かってきました。木星と同じく放射線帯が存在する地球の場合、放射線帯の変化は、「太陽風」と呼ばれる太陽から常に吹きつける電離したガス(プラズマ)の流れの変化によって大きな影響を受けることが良く知られています。一方、木星の放射線帯の場合、この太陽風の変化による影響はまだよく分かっておらず、木星放射線帯に変化を及ぼす「何か」の候補として、この太陽風の変化との関係が注目されています。

 ところで、太陽風の変化が地球に影響を与えることはどうやって確認されたのでしょうか? これには太陽と地球の間に滞留し、地球に吹きつける太陽風を観測する科学衛星が大きく貢献してきました(米国のACE衛星など)。この科学衛星と、地球の周りを航行し放射線帯の様相を探る科学衛星で得られたデータを比較することにより、太陽風による放射線帯への影響を知ることが出来たのです。では、木星の場合も同じように調べれば良い? そうなのですが、これが容易ではありません。というのは、太陽と木星の間に停留し木星に吹きつける太陽風を観測するような科学衛星は木星に対しては存在しないのです。このため、時折木星に接近する探査機が貴重な機会を提供してきました(*)。

 その貴重な機会がこの夏に久しぶりにやってきました。米国のJUNO探査機が木星に接近しつつあるのです。JUNO探査機は7月初旬に木星を周る軌道に入り、木星の人工衛星になりますが、現在はまだ木星に接近しつつあり、木星に吹きつける太陽風の情報を捉えています。JUNOが木星の人工衛星となった後の観測情報は勿論エキサイティング!です。ですが、その前に得られる太陽風の情報も木星放射線帯に影響を及ぼす「何か」を探る上でとても大事なのです。

 私達は、このJUNO探査機がもたらす木星に吹きつける太陽風の情報と木星放射線帯の様相を比較するために、国内外の3種の大型アンテナを使ったキャンペーン観測を5月から6月にかけて行ってきました。1つ目の大型アンテナは私達の福島の方形パラボラアンテナ、2つ目は茨城にある情報通信研究機構鹿島宇宙技術センターの直径34mのパラボラアンテナです。この2つのアンテナを使った木星電波の観測では、波長(波の山から山、あるいは、谷から谷までの長さ)が、前者は90cm程、後者は13cm程の電波を捉えます。2つの波長での連続的な観測から、木星放射線帯の中に含まれる高速の電子の速さが、放射線帯全体でどう変化しているかについて情報が得られます。3つ目の大型アンテナは、直径45mのパラボラアンテナ30基から構成されたインド国立電波天体物理学センターの大型電波干渉計GMRTで、波長が20cm程の「電波で見た写真」を撮ることが出来ます。この観測から、高速の電子が何処にどの程度分布しているのか、また、連続的な観測から、分布がどう変化しているかが分かります。私達はこれら3種の観測を手分けして行ってきました。

 果たして木星放射線帯に影響を及ぼす「何か」に太陽風は関係しているのか? どんな答えが出るのか、私達はワクワクしながら大量のデータの解析を進めているところです。

 *:探査機による直接的な計測ではありませんが、地球付近で計測された太陽風のデータ等を用いて、木星に吹きつける太陽風の状態について数値計算を援用して推測する方法も研究されてきています。

 (文責:三澤)

写真(左):インド国立電波天体物理学センターの電波干渉計GMRTの45mパラボラアンテナ群

写真(右):情報通信研究機構鹿島宇宙技術センターの34mパラボラアンテナ

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2016年5月23日

宇宙・惑星をアウトリーチする

 今年の冬は、オーロラのあたり年でした。太陽活動は、11年周期で活発と静穏を繰り返していますが、今、活動は低下中です。太陽表面の黒点数は、現在40くらいです。これから更に少なくなって行きますが、まだ大きなフレア(太陽面爆発)を起こします。一方、太陽の北極と南極からは、コロナホール(コロナの穴)が赤道に向かって張り出しており、ここから、高速の太陽風が吹き出しています。

 フレアで放出された太陽のコロナガスの塊や、コロナの穴から出る高速太陽風が地球に押し寄せると、地球周辺の宇宙空間は嵐の状態になって、オーロラが出現します。私たちのセンターでは、毎年、北欧や北米に出かけて行って、オーロラを観測します。今季の冬は、以上の2つの原因が重なって激しいオーロラが出現しました。

 一方、私達がハワイ・マウイ島のハレアカラ山頂に設置した光学望遠鏡も、惑星観測に活躍しています。今年の夏には木星に探査機が到達するので、共同観測が企画されています。昨年の12月には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の金星探査機「あかつき」が、5年越しの挑戦に成功しました。私たちは、今、ハワイの望遠鏡で、金星を観測する準備をしています。

 惑星の研究に世界の力が集まっている様子を、高校生や中学生そして市民の皆様にお伝えすることは、とても重要と考えています。私は、理学部の広報を担当していますので、青葉山に見学に来られた高校生のみなさんに、宇宙と惑星の研究の状況を、実験室の見学を交えながら説明しています。

 青葉山の東北大学理学部には、宇宙・惑星だけではなく、数学、物理、化学、生物、地球科学、そして、天文といった、全てのサイエンスが勢ぞろいしています。月に1回、キャンパスツアーも企画しています。ぶらりと理学部に出かけてみませんか?(小原隆博)

学生の皆様にオーロラと惑星の研究を紹介しています

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2016年5月 9日

水星の日面通過

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 2016年5月9日に水星の日面通過が約10年ぶりに起こります。水星の日面通過は、地球にいる観測者から見て水星が太陽の前を横切る現象です。左の図は、2016年5月9日18:00(日本標準時)から1時間ごとの太陽に対する水星の位置を示したものです。見やすくするため、水星の視直径は実際の2倍に拡大してあります。今回の日面通過は、残念ながら日本からは観測できませんが、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ大陸では良い条件で観測することができます。我々もハワイのハレアカラ観測所において観測を実施する予定です。

 さて、水星の日面通過からどのようなことがわかるのでしょうか?水星には、希薄ながらもナトリウムやカルシウムといったアルカリ(土類)金属元素から成る希薄な大気の存在が知られています。これら水星近傍の大気を構成する元素により、特定の波長において、太陽からくる光が僅かながら吸収を受け、光量が減少します。減少した光の量を精密に測定することで、水星大気の量と分布がわかると期待されます。 (鍵谷)

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2016年4月11日

日食で電離層に穴が開く現象を電波で観測

2016/3/9に東南アジアで皆既日食があり、PPARCでは千葉大学、インドネシアの宇宙機関LAPAN、サレジオ高専、北海道大学と共同で、日食時の電離層の変化を観測しました。電離層は、地球の大気が主に太陽の紫外線によってプラスの電気を帯びたイオンと、マイナスの電気を帯びた電子に「電離」している場所で、地表から70km-数100kmの高さに存在していいます。日食が起こると日中でも太陽の紫外線が当たらない場所が発生するので、太陽の紫外線のあたり方によって地球の大気がどのように影響をうけるのかを観測から調べることができます。電離層の様子は電波を使って地上から観測をすることができます。今回の観測では、電波時計の電波として知られている標準電波が電離層のD層で反射した電波を、インドネシアのポンティアナに設置した観測装置で観測しました。電波の観測は天候に関係なく行えますので、日の出の直後に始まった日食で電離層が薄くなり、日食が終わるにつれて元に戻る様子の観測に成功しました(グラフ参照)。詳しい観測データの解析はこれからですが、2009年の皆既日食でも同様の観測を日本と台湾で行い、そのデータを解析した結果は学術論文に発表されています。

電離層のD層は紫外線のほかに、太陽のX線、宇宙から降り注ぐ宇宙線や放射線帯の高エネルギー粒子によって電離を受けます。地球を有害な紫外線や放射線から守っている結果、D層ができていると言っても良いでしょう。このようなD層の性質を使うと、放射線帯の高エネルギー粒子が地球の大気に降り注ぐ現象を地上の電波観測によって調べることができます。PPARCでは、名古屋大学国立極地研究所アサバスカ大学アラスカ大学と協力してノルウェー、アラスカ、カナダにも標準電波の受信機を設置して、高エネルギー粒子の降込み現象が発生する条件を研究しています。今年度日本から打ちあがるジオスペース探査衛星(ERG衛星)との共同観測も行う予定です。(土屋史紀)

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2016年3月23日

PPARC追いコン

本日は毎年恒例のPPARC追いコンが開催されました。

今年卒業するのは、修士の柏木君、森永君、学士の伊藤君です。ご卒業おめでとうございます!M1より、趣向を凝らした記念品が贈呈されました。研究室での経験を、今後の生活に役立てて頂ければと思います。ついでに、ついこの前までPPARCに在籍していた八木さんにもプレゼントが贈られました。今までありがとうございます。

さらについでですが。。思いがけず私もプレゼントを頂きました(私事ですが、来年度から隣の惑星大気物理学分野に移籍します)。なかなかお洒落な「ガリレオ温度計」と「ワイングラス」です。どうもありがとうございます。

(北)


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2016年3月 8日

「惑星圏研究会」が開催されました。

 2016年2月22日~24日の3日間に渡り、東北大学大学院工学研究科青葉記念会館で「惑星圏研究会」が開催されました。この研究会は2000年に「電波と光による木星磁気圏・大気圏観測研究会(大家コンファレンス)」として初めて開催され、以来、毎年1回開催されており、今回で第17回になります。惑星プラズマ・大気研究センターは、初回より、この研究会のメイン・ホストを務めてきました。(惑星圏研究会についてはhttp://pparc.gp.tohoku.ac.jp/workshop.html もご参照下さい。)

 昨年12月には日本初の惑星探査機となった「あかつき」の金星周回軌道投入成功がありましたが、今夏にはNASAのJUNO探査機の木星周回探査の開始や、その後には日本とESA(欧州宇宙機構)との共同ミッションである水星探査機の打上が予定される研究等、今後も新しい惑星直接探査プロジェクトが続きます。この惑星探査ラッシュの時期を鑑み、今回の研究会では、今後特に期待されるサイエンスについて、各プロジェクトに関係の深い国内外の研究者をお招きして特別セッションが行われました。また、今回の研究会では、初めて2つの共催セッションも開催されました。一つは、本研究会に参加される多くの方が会員となっておられる、地球電磁気・地球惑星圏学会(SGEPSS)の2つの研究分科会:太陽地球惑星系科学シミュレーション分科会、小型天体環境分科会にホスト頂いたセッション、もう一つは、名古屋大学宇宙地球環境研究所(太陽地球環境研究所)共同研究集会「太陽地球惑星系分野における博士課程進学者・博士号取得者による合同セミナー」のセッションです。

 今回の研究会はこれらのセッションの共催もあり、国内外から20研究機関、計約100名の方にご参加頂き、75件の講演(口頭45件、ポスター30件)が行われました。2000年に行われた研究会初回は、2日間の開催で、13研究機関の参加、33件の講演(口頭のみ)の内容でしたので、研究会の規模も拡大し、参加者・講演数も随分増えて参りました。学生の方の参加についても、初回は2研究機関のみの参加で講演数も7件でしたが、17回目の今回は参加研究機関7、講演件数30と、大きく増えました。惑星研究の次代を担う多くの学生の方の参加は、大変喜ばしいことです。ただ、近年、参加研究機関数や学生講演数(地球以外の惑星に関する講演数)に大きな変化がないように見受けられるのは些か気懸かりです。今後の惑星研究の展開に向けて、特に若い芽を如何に増やし育てていくか、それらも勘案し、この研究会をどう活用してゆくか、が更なる課題になってきています。

(文責:三澤)

図1 最終日午後の火星セッションの一コマ@青葉記念会館4階研修室

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図2 ポスター講演コアタイムの一コマ@青葉記念会館1階ロビー

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2016年2月18日

国際共同大学院 10月スタート

 私達、惑星プラズマ・大気研究センターが所属する理学研究科では、大学院生の教育に資するプログラムを来年度、立ち上げます。その名は国際共同大学院(環境・地球科学)で、惑星分野も柱の一つです。建国記念の日の2月11日、理学研究科長の早坂先生を中心に4名で、ハワイ大学の地球や惑星を研究している幾つかの研究所を訪ねました。写真は、海洋研究所での記念写真です。

 理学研究科がスタートさせる国際共同大学院(環境・地球科学)は、大学院生にとって、以下の2つの魅力があります。1)海外の大学で研究や観測が出来る事、そして、2)海外の大学の先生から講義や実験の指導を受けれる事です。

 私たち担当教員は、10月の開設に向けて、目下、カリキュラムの作成や観測・実験の準備を進めています。そして、大学院生の海外の大学への派遣と、海外大学の協力教員の招聘について、スムーズに行えるように、事務組織と調整をしています。

 派遣期間は、概ね1か月程度になりそうですが、惑星観測の最も適した時期に合わせて準備をする学生さんの姿を想像すると、とてもワクワクして来ます。

 大学院の学位記は、東北大学が授与しますが、ハワイ大学など、外国の大学にて研究を行った証書も、同時に授与されます。若い日の外国での研究は、将来の大きな飛躍につながって行きます。一人でも多くの大学院生が、国際共同大学院に参加される事を願いながら、準備を進めています。(小原隆博)

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ハワイ大学 海洋研究所の所長室にて(前の列に東北大メンバーが座っています)

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2016年2月 4日

ガリレオ衛星の食

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木星には、ガリレオ衛星と呼ばれる4つの大きな衛星があり、木星の周りを2-17日の公転周期で回っています。この様子は5cm程度の小さな望遠鏡を使っても観察することができます。これらの衛星は、木星の背後に近付き、太陽がつくる木星の影に入ってしまうと、地球から見える位置にあるにも関わらず、数10秒の内にふっと消えたように見えることがあります。これをガリレオ衛星の木星食と呼びます。左上の画像は、ハワイの60cm望遠鏡に同架した口径5cmの望遠鏡で、衛星イオ(Io)の木星食の様子を観察したものです。左下の図は、同時刻の木星の影と衛星の位置を示しています。12:15UTあたりで、イオが突然見えなくなっている様子がわかります。

衛星が木星の影に入っている間は、普段太陽に照らされて眩しくて見えない、衛星の大気で起きている様々な発光現象を捉える絶好の機会です。イオでも、オーロラや火山火口からの光が食のときに詳しく観測されています。(鍵谷)

続きを読む: ガリレオ衛星の食
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2016年1月19日

修士論文提出大詰め

研究室は毎年1月になると修士論文提出モードにシフトします。というのも、修士課程2年の学生さんたちの論文提出〆切が例年1月下旬なので。
提出期限までに論文を仕上げるために、2年間の研究結果のとりまとめと、論文執筆のラストスパート中です。

今年の修士論文の研究テーマは、世界最高クラスの感度と分解能を誇るPPARCの太陽電波観測装置、AMATERASを使ったタイプII型太陽電波バーストの研究(柏木君)と、地球大気と宇宙空間の境界にあたる電離圏に気象現象である落雷が与える影響を電波観測により調べた研究(森永君)です


PPARCで惑星、地球、太陽とそれを取り巻く宇宙空間を研究する学生の皆さんをいつも募集中!

(土屋)

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