寺田直樹さん(東北大学准教授)に聞く 「国際連携のもと、惑星大気の行方を探る」

インタビュー Interview

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Vol.6 派遣若手研究者インタビュー


寺田直樹さん(東北大学准教授)に聞く
「国際連携のもと、惑星大気の行方を探る」


惑星大気の進化や多様性が生じる原因を探る

 太陽からは、光や太陽風(超音速の荷電粒子の流れ)が常時吹き出しています。その影響を受けて、惑星の大気は宇宙空間に剥ぎ取られ、絶えず流出しています。その結果、惑星の大気がどのように変化してきたかを調べることを我々の研究目標としています。

 惑星がどのように進化したのか、生命がどのように生まれてきたのか、我々がなぜここにいるのか。それらを理解する上で、惑星の大気の流出と、それにより駆動される惑星の環境変化は重要な鍵です。もともと私の研究は宇宙空間の荷電粒子から始まったため、特に惑星間空間を流れる太陽風が惑星の大気に与える影響に興味を持っています。

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寺田直樹さん(東北大学准教授)


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【図1】火星大気が宇宙に流出する様子を数値シミュレーションで再現

火星の水はどこへ逃げた?

 私の主な研究ターゲットは、火星です。火星は地球や金星と比べて小さい分、重力が小さく、かつ磁場を持たないため、太陽風の影響を受けやすく、かつ大気の剥ぎ取り過程が現在進行形で起こっている惑星として、最適な研究ターゲットなのです。

 実際に、火星大気中に存在する酸素が1億年間ですべて失われるほど、大気が宇宙空間に失われていることが探査機によって直接捉えられています。さらに探査機による地形解析や水和鉱物の観測等によって、火星には、その初期(約30~40億年前)に大量の液体状態の水を湛えた時期があったことが明らかになりました。しかし、その温暖な気候を保持していた温室効果ガスと水がどこへ消えたかは未だよくわかっていません。この劇的な環境変化を引き起こした要因の候補として、宇宙空間への大気の流出が注目されています。

 しかし、現在の観測のみでは現在しかわかりません。そこで、現在の観測結果を踏まえ過去を調べる道具として活躍するのが、数値シミュレーションです。私は主に「電磁ハイブリッド(粒子イオンと流体電子の混成)シミュレーション」と「磁気流体力学シミュレーション」の2種類を世界に先駆けて開発し、惑星大気が太陽風の影響によって、どのような物理機構により、どのような経路で宇宙空間に流出するかを理論的なアプローチで明らかにしてきました。

 そして、火星で過去どれくらいの水が失われてきたかを磁気流体力学シミュレーションで見積もった結果、初期火星から最大70メートル深さの水が失われたことが私の計算から得られました。

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【図2】火星の水の流れの痕跡(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

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【図3】寺田さんが開発した磁気圏モデル(金星・火星大気の現在の少量宇宙流出)


領域間結合モデルの国際共同開発

 さらに最近は超高層大気だけを調べるのでは不十分なことがわかってきました。NASA(アメリカ航空宇宙局)の「MAVEN」等の火星探査機による観測結果から、下層大気から来る擾乱(大気波動)が、超高層大気や宇宙空間に影響を及ぼしていることが示されています。そこで最近は、下層から超高層大気をつなぎ、かつ温室効果ガスである二酸化炭素の宇宙空間への流出量を、領域間結合モデルを使って調べようとしています。

 このモデル結合で世界的に先行しているのがフランスの大気環境宇宙観測研究所(LATMOS)で、LATMOSのモデルは実際にMAVENの観測データと比較しており、次のステップへ進んでいます。一方で東北大学のモデルは精巧で緻密なモデルなため、より詳しく物理機構を調べたい時に貢献しています。我々はコラボレーションしながら研究を進めています。

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【図4】NASAの火星探査機「MAVEN」(提供:NASA)

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【図5】LATMOSの結合モデル


より普遍的な大気進化の解明へ

 火星超高層大気研究の世界的権威であるFrancois Leblanc博士ら率いるLATMOSチームから学ぶことはとても多く、その研究体制や研究に対する姿勢などからも度々感銘を受けています。特に、得意とする物理過程を軸にすることで少人数ながら大変効率的な研究が可能となっており、自分の得意な中軸を持ち、研究を展開する必要性を学びました。私も今後それを確立し、惑星進化を火星のみならず様々な惑星で適用可能なモデルを開発したいです。それも太陽系のみならず太陽系外まで発展させ、より普遍的なモデルを開発することが目標です。さらには太陽系外で生命が居住可能な惑星が成立する条件の理解を目指したいですね。中軸を持ちながら、これからも自分がおもしろいと思うことを追求し続けたいです。

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【写真1】火星や水星、木星衛星のモデリング以外にも、粒子計測器開発、衛星光学観測、地上光学観測など多岐にわたって活躍するLeblanc博 士らのグループ
と、熱心に議論を交わす寺田さん


フランス・大気環境宇宙観測研究所(LATMOS)Francois Leblanc博士より

 我々と寺田さんは同じ目的を共有していますが、アプローチする方法はたくさんあり、それを相補的に補い合えることが良かったです。例えば、寺田さんが得意な波動のことを、私はよく知らないので、お互いに相手が持っていないものを用いて議論できることが大変魅力的でした。それにより、新しい様々なアイディアや戦略が生まれるため、異なるグループで議論することはとても大切です。このような機会に感謝しています。

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【写真2】寺田さんと数値シミュレーション結果について議論するLeblancさん