太陽風によって温められる木星大気
(文責:笠羽)
東北大学は、NASA ジェット推進研究所・国立天文台・情報通信研究機構のメンバーによる国際チームで、太陽風で駆動される高エネルギー現象「オーロラ」が、従来考えられていたよりも深い部分まで木星大気を加熱することを明らかにしました。ハワイ・マウナケアにある国立天文台・すばる8-m望遠鏡の中間赤外線カメラ COMICS による観測成果です。
2017年1月、2月、5月に行われた観測で撮影された中間赤外線画像は、木星の極域に現れるメタンガスの発光域「ホットスポット」とその変動を捉えました。これは、木星大気中で炭化水素の化学反応が起き、また大気温度が変動したことを示します。地球では、太陽コロナが惑星間空間へと吹き出す「太陽風」が地球を取り囲む磁気圏を揺らすことでオーロラが起こります。磁気圏から極域へと振りそそぐ高エネルギー粒子は、高度約100km以上の希薄な大気にぶつかってこれを加熱し、またオーロラを発光させます。木星でも同様のことが起こりますが、今回のすばる望遠鏡観測は、メタンガスのあるより深い成層圏にも太陽風の影響が直接及ぶことを明らかにしました。また、木星での太陽風変動の推定結果との比較で、太陽風強度が増大してから1日以内にこの影響が及ぶことも明らかになりました。
これによって、木星の成層圏の温度と太陽風の変動を、初めて関連付けることができました。太陽の高エネルギー活動が惑星環境に直接影響を与える『宇宙天気』現象の極端な一例で、太陽風がはるか上層の電離大気だけではなく、より下層の大気にも直接影響を与えることを初めて確認したものです。
この論文をまとめたのはJames Sinclair (NASA/JPL)で、若いポスドク研究者です。私は、Glenn Orton (NASA/JPL)とともに「すばる望遠鏡・木星観測プログラム」の研究代表者として、この成果につながる観測データを彼と取得しました。一緒に観測を行った佐藤隆雄さん(北海道情報大)を合わせていつもの「4人組」です。また、木星位置への太陽風情報の推定は、いつもながら情報通信研究機構の垰千尋さんにお願いしました。峠さん・佐藤くんともども、私が2007-2017年度に主であった本学・惑星大気物理学研究室の出身ですので、本成果は、東北大が30年以上続けてきた「太陽系最大の惑星・木星」に対するチャレンジのひとつの帰結でもあります。
今回の成果は、太陽活動によって宇宙空間から降り注ぐ高エネルギー粒子が、木星大気の加熱や化学反応を引き起こすことを明確に示しました。このような現象は、強い太陽・恒星活動にさらされる過酷な環境を持つ惑星、例えば若かりし頃の地球や、他の恒星を巡る系外惑星の大気中で起きえる複雑な有機化学反応について、手がかりを与えてくれるものでもあります。太陽黒点に代表される太陽活動と地球気候との間は相関があることも知られていますが、小学生向けの図鑑にも載っているような基礎的な話なのに原因がつかめていません。こうした話題の解決にもつながっていくといいな、と考えています。
東北大学惑星プラズマ・大気研究センターは、宮城県・福島県・ハワイに置いた独自の電波・光赤外線望遠鏡群、および宇宙航空研究開発機構(JAXA)・東京大等と打ち上げた紫外線宇宙望遠鏡「ひさき」によって、米国 NASA の木星探査機『ジュノー(Juno)』を地球から支援する国際協調観測キャンペーンを支えています。この論文に用いた観測データをとりに行ったすばる望遠鏡による観測もこの一環でした。これら国際的な木星協調観測により、これからもさらなる成果がもたらされることが楽しみです。
図:すばる望遠鏡中間赤外線カメラCOMICSが捉えた木星。色は、木星成層圏にあるメタンの発光強度を示す。明るい部分が木星の北極域と南極域にみられるが、この領域に磁場を介して入ってくる太陽風の影響で加熱を受けていることを示している。(撮影:2017/1/12。提供:国立天文台・NASAジェット推進研究所)
図:すばる望遠鏡中間赤外線カメラCOMICSが捉えた木星。色は、木星成層圏にあるメタンの発光強度を示す。明るい部分が木星の北極域と南極域にみられるが、この領域に磁場を介して入ってくる太陽風の影響で加熱を受けていることを示している。(撮影:2017/1/12。提供:国立天文台・NASAジェット推進研究所)
<LINK>
東北大・理学部から(本部にも同じ内容)
情報通信研究機構から(峠さんの本拠地)
NASAジェット推進研究所からのプレスリリース
国立天文台すばる観測所からのプレスリリース