坂野井健さん(東北大学准教授)に聞く「観測と理論の両面で国際共同研究体制を強化」

インタビュー Interview

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Vol.7 主担当研究者インタビュー


坂野井健さん(東北大学准教授)に聞く
「観測と理論の両面で国際共同研究体制を強化」


世界的な観測最適地ハレアカラ山頂に望遠鏡拠点を構築、自前の観測手段を核に国際共同研究体制を強化

 結論が先になりますが、本プロジェクトの目的を、観測と理論の両面で順調に達成でき、非常に有意義な結果を得ることができました。
 観測分野では、3年前はハワイのハレアカラ観測所には十分な観測手段がありませんでしたが、派遣された鍵谷君と中川君の活躍もあって、今では口径60cmの望遠鏡がほぼトラブルなく順調にフル稼働しており、観測時間が足りなくなるほどです。この惑星専用望遠鏡には、国内外の研究者から多くの利用問い合わせがあり、ハワイやフィンランド、国内では九州国際大学のグループ等と、共同研究を進めています。
 特に本プロジェクトをきっかけに、観測分野でハワイ大学との強い連携が築かれました。現在、惑星・系外惑星専用望遠鏡「PLANETS」(口径1.8m)をハレアカラ山頂に設置するための定期的な会合や電話ミーティングを頻繁に開く等、非常に密な交流関係のもと、着実に計画を進めています。

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坂野井健さん(東北大学准教授)
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ハワイ大学との「PLANETS」ミーティングのようす


高精度・高分解能の惑星大気領域間モデル開発を推進

 モデリング分野も、フランスの大気環境宇宙観測研究所(LATMOS)とドイツのマックスプランク太陽系研究所(MPS)のチームと共同研究を行い、派遣された寺田君と黒田君の得意分野である惑星大気シミュレーションの研究も順調に進みました。人的交流も深化し、こちらから研究者を派遣するだけでなく、連携先の研究者も来日し情報交換やセミナーの開催等により相互理解を深め、次の研究にむけた検討も進めています。
 具体的には2014年9月、NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査機「MAVEN」で、火星大気の下層から宇宙空間まで上下にわたる広範囲で最新成果が出始め、世界的に大注目されています。このような流れを見越して理論サイドから情報を提供できつつありますので、その意味でもタイムリーな結果を出せたと思います。

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フランス国立科学研究センター大気環境宇宙観測研究所( LATMOS )に派遣された寺田直樹准教授と共同研究を行った Leblanc博士


将来の探査機計画に合わせた惑星大気研究体制

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金星探査機「あかつき」も2015年12月、金星周回軌道投入に成功し、2016年2月頃から本格観測が始まります。ここで我々も「あかつき」のメンバーとして、金星のデータ解析と理論の両面で重要な貢献できると思います。ほかにも我が国の探査機計画では、新しい火星衛星サンプルリターン計画が走り始めています。その探査機は固体地質のみなえらず大気やプラズマ等すべて含む、分野横断的な取み組みになるでしょう。さらに2016年には、NASAの木星探査機「Juno(ジュノー)」が初めて木星衛星軌道へ投入されます。今後、木星オーロラや電磁波、木星の衛星イオの火山活動等、詳細な探査機観測が始まるため、我々はそれらに向かって地上からの連続観測を実施しようとしています。その後も、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)とJAXAが共同で打ち上げる木星氷衛星探査機「JUICE(ジュース)」(2030年木星到着予定)や水星探査計画「ベピ・コロンボ」等、これまで努力して蓄積してきたものの成果が出続ける状況にあります。それら探査機計画に合わせて、地上観測は口径60cm望遠鏡が稼働できましたし、PLANETSも整備していきます。

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火星 (c)NASA


観測とモデリングの統合したアプローチへむけて

 各プロジェクトに関しては、4名の若手研究者による研究がそれぞれ苦労しながらも推進し、具体的な成果が挙がりました。その一方、「観測とモデリングの統合したアプローチ」という点に関しては、今後取り組むべき課題です。
 本質的な問題になりますが、本来は三次元上の空間のそれぞれの地点で温度や圧力、磁場や電磁等、その場その場の物理プロセスがあります。それを支配する物理法則を知ることを我々は目指していますが、そのためには物理法則を定式化できれば、より「そこでの物理過程を理解した」と納得することができます。ところが、地上といった遠くから惑星を観測する「リモートセンシング」の場合の多くは、特に光による観測では、そのような三次元空間の電場や磁場、温度や圧力といった、物理パラメータそのものが直接わかるわけではなく、その発光を見るわけです。つまり、まず「物理パラメータが光に変換される」という発光過程が入ることと、その発光量は三次元空間でわかるのではなく「見ている方向に重なった積分量(視線方向積分)の二次元画像」として見ています。
 一方でモデリングは多くの場合、本質的に三次元空間に加えて時間の変化も含まれるため四次元と言ってよいのですが、その意味では、リモートセンシングで得られる観測量とは性質が異なるわけです。特に物理法則を成立させる圧力や温度等のパラメータがわかります。ここで、シミュレーション結果とリモートセンシング観測と照らし合わせようとすると、パラメータの質の違いや空間分解能、時間分解能といった、物理プロセスを理解するのに必要な情報が、必ずしも一致しないため、単純には比較できないことが多いのです。このため、観測とシミュレーションとの比較研究で十分な結果を出すためには、相当の時間と戦略性が必要です。

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光学リモートセンシング観測
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モデリング・シミュレーション


探査機との連携が今後の鍵に

 今後に向けて科学的にも人的交流的にも次のステップを広がるためには、先述の探査機との連携がキーになると思います。探査機は、惑星系に突入してその場の物理パラメータの詳細な値が得られますが、その一方で、地上観測で行えるようなグローバルな全体像を捉えるのは難しいのです。そこで、お互いの長所を相補的に活かした、探査と地上リモートセンシングの比較が非常に重要になります。また、探査機データはその場の物理パラメータを観測するので、モデリングとの比較もしやすいわけです。これからの探査機計画をチャンスと捉え、探査機データも有効的に活用することで、観測とモデリングの統合的なアプローチという目標を果たしていきたいと考えています。

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NASAの火星探査機「MAVEN」(c)NASA