PPARCセミナー(2023/04/23)

PPARCセミナー(2023/04/23)

発表者:風間暁

タイトル:Analysis of surface pressure distribution on Mars by CO2 2 μm absorption band

CO2 2 μm吸収帯による火星表面圧力分布の解析

アブスト:気象学では、大気運動を特徴づける地表面圧力の観測は極めて重要である。火星における圧力変動の観測は、着陸機による特定地点と、限られた周回探査機からのリモートセンシング観測によるもののみである。リモートセンシング観測から地表面圧力の水平分布導出に取り組んだ唯一の事例として、Forget et al. (2007)およびSpiga et al. (2007)によるものがある。この事例では、Mars Express(MEx)に搭載された近赤外分光撮像装置OMEGAの初期観測(2004-2005)で得られた2 μm帯のCO2吸収量から、火星表面圧力の導出を 行った。ダストが少ない(τ<0.4)など理想的な状態のデータのみを対象としたため、圧力導出は全データの 0.7%程度(約4000回のnadir観測中29回)に留まるが、これにより95×150 km(経度幅2.5°、緯度幅4°)の地表面圧力水平分布を求めることに成功している。

 近赤外線分光器MIRSは、2024年に打ち上げ予定のMMXに搭載される。MIRSは、MEx/OMGA同様の波長範囲と分解能で、より広いスペクトルを短時間で撮影できるため、高速なリトリーバルツールが求められる。我々は、MMXを使って火星の表面圧力の水平分布をより詳しく調べることで、火星気象学への理解を 深めることを目指している。本研究では、OMEGA/MExによって観測された2 μmのCO2吸収帯を含む1.8 – 2.2 μmの25点のOMEGA観測波長から火星地表面圧力をリトリーバルするツールの開発を行った。本研究では、Forget et al. (2007)に倣った地表面圧力をLook Up Table(LUT)を使用することで高速リトリーバルする手法を用いた。

地表面圧力の導出には、(1) CO2吸収帯の等価幅を観測スペクトルと計算スペク トルで比較する新しい手法、(2) CO2吸収帯の観測スペクトルを計算スペクトルでfittingする手法、の2つを試行した。前者は計算速度に優れ、後者は導出精度に優れている。リトリーバルでは、固定できるパラメーターを固定する。太陽天頂角、視野角、位相方位角はOMEGAの観 測ジオメトリを用いた。温度分布、ダスト光学的厚さ、水氷光学的厚さはMars Climate Database Version 5.3(MCD v5.3)によって推定された値を用いた。等価幅法における地表面アルベドは、連続スペクトルを基 に固定した。fitting法ではフリーパラメーターとして圧力と同様にアルベドもリトリーバルした。

 Forget et al. (2007) との比較を軸に、3地点(ヘラス盆地、クリュセ平原、Terra Meridiani)で行った。相対精度の検証は、3日離れた2軌道間の導出圧力の比較によって行った。等価幅法では、導出した圧力リト リーバルの特定地点での導出精度は+3%から+42%、地点間での相対精度は3σ~±30 Pa(±4%)とな り、fitting法では、特定地点での導出精度は-0.1%から-2.3%、地点間での相対精度は、3σ~±15 Pa(± 2.0%)となって、特定地点において誤差範囲内で先行研究の導出結果と一致した。その上で、基準高度面での 圧力を導出するため、表面圧力値を高度補正する方法も確立した。fitting法によって導出した基準高度面での 圧力の地形間の相対精度は3σ~±10 Pa(±1.7%)となった。火星の大気波動変化の解析に十分な結果となった。そこから、MCDと地表面圧力分布が一致しない地域スケールの気象現象を特定し、基準高度面での圧 力を用いて、相対精度< 5%で解析を行う。データ解析では、事象調査やQL作成に等価幅法を、詳細解析に fitting法を適用する。

 本講演では、このリトリーバルツールを使用した火星年28(2006年1月-2007年12月)の表面圧力分布に ついて初期解析結果について報告する。等価幅法では、期間内の全解析(2348データ)に約50日(fitting法では約1200日)かかり、fitting法と比べて現実的である。さらに、MIRS/MMXへの適用可能性についても述べ る。これは、火星の広域圧力分布とその変動リトリーバルを可能にすることで、MMXによる火星気象学への主要な貢献の一つとなる。

 

発表者:坂野井健

タイトル:First light and initial results of TOPICS installed to the Pirika Telescope of Nayoro Observatory

北大名寄ピリカ望遠鏡に取り付けられたTOPICSのファーストライト初期成果