PPARCセミナー (2025/06/02)

PPARCセミナー (2025/06/02)

(1)

[Name]
Haruki Okuda

[Title]
波長427.8nm全天カメラの開発と運用及びMSTIDの観測

[Abstract]
2024年5月、日本国内で低緯度オーロラが広範囲に観測されたことを受けて、我々は427.8nm波長に対応した新たな2台目のオーロラカメラを開発・設置した。本カメラは、窒素分子イオンの発光を対象とし、高度90〜120km程度の発光層を観測する。一方、従来から飯舘観測所に設置されている630.0nm帯のカメラは、酸素原子による発光(高度150km以上)を対象としている。 2台目カメラの開発を進めていた段階で、飯舘観測所に設置されていた1台目カメラから発生するEMCノイズが、近隣に設置されたIPRTの観測に干渉していることが判明した。このため、1台目カメラには電磁シールドなどのEMCノイズ対策を講じたが、十分にノイズを抑制するには至らなかった。結果として、2台目カメラの飯舘観測所への設置は断念され、最終的に両カメラを蔵王観測所に移設し、無事に運用を開始した。 観測期間中に低緯度オーロラは確認されなかったものの、取得された画像に差分処理を施した結果、夜間大気光中にMSTID(中規模伝播性電離圏擾乱)とみられる縞模様構造が検出された。また、427.8nmおよび630.0nmの2波長による同時観測データから、比較可能な動画の作成も行った。今後は、これらの観測データを地図上にマッピングし、GEONETデータとの比較を通じたMSTIDの詳細な解析を進める予定である。


(2)

[Name]
Takeru Katou

[Title]
Cassini電波・軌道データを用いた惑星電波掩蔽法に適用可能なTitan flyby調査

[Abstract]
これまでTitanで行われてきた電波掩蔽観測やIn situ観測ではローカルタイムや高度帯が限られるため、Titanの昼・夜低高度電離圏を推定することが難しかった。そこで安田さんは、Cassini搭載の高周波受信機(HFR)と3軸電場アンテナで捉えた土星電波強度および円偏波偏向データを用い、電離圏を通過した土星電波を解析する「惑星電波掩蔽法」を新たに提案した。この方法ではTitanによって掩蔽された土星電波をCassiniで観測しているflybyを特定する必要があった。今回の実験ではCassiniの軌道データと電波・偏波データを、2004年から2017年にかけての126回のTitan flybyで分析し、惑星電波掩蔽法に適したflyby抽出を試みた。具体的には軌道データを活用し、電波データに現れているイベントの原因を推定した。各flybyを、解析に使えるもの(〇)、電離圏のプラズマ周波数が主体のもの(△)、電波・軌道両データにおいてイベントなしと考えられるもの(×)の3段階に分類した。結果、惑星電波掩蔽法を適用できそうなflybyと電波データを約20セットほど確認することができた。


(3)

[Name]
Hiroshige Yamaguchi

[Title]
惑星電波望遠鏡IPRTの広帯域、高感度な受信機開発

[Abstract]
現在、PPARCで運用しているIPRT(飯舘惑星電波望遠鏡)では広帯域・高感度化を目指し、新しい受信機の開発を行なっている。
現行の IPRT の受信系は、325MHz(& 650MHz:開発中)中心の狭帯域高感度観測用に加えて、100-500MHz帯をターゲットとした広帯域太陽電波スペクトル観測システムを独立して備えている。しかし後者の広帯域観測システムでは開口能率が平均で20%程度であり、感度が十分ではなかった。
そこで広帯域かつ高感度化が可能な角錐型sinuousアンテナの導入によって100MHz〜700MHzで平均40%まで開口能率を引き上げ(①)、325MHzおよび625MHzでは60%の開口能率を得る(②)ことを目標に設計が開始された。これまでに1/4スケールの試作機による第1回目の実機実験を終えており、①の目標は概ね達成された。
現在は更なる高感度化を目指し、第2回目の実機実験および最終的な設計決定に向けて、電磁界解析ソフトウェアFEKOを用いて設計検討を進めている。
本セミナーでは、これらの進捗についてご紹介する。