PPARCセミナー(2024/2/16)

PPARCセミナー(2024/2/16)

(1)
[Name]

Ryota Kinoshita

[Title]

イオの観測に向けた近赤外高分散エシェル分光撮像装置ESPRITの開発

[Abstract]

 太陽系最大の巨大惑星木星では、イオ火山を起源とするプラズマは共回転型磁気圏で加速され、電離圏-熱圏結合を通じて極域オーロラ発光を引き起こす。そのため、木星オーロラとイオからのプラズマ供給、ならびに木星磁気圏でのプラズマ輸送との関係を知ることは、木星磁気圏変動現象の理解に本質的である。東北大学が開発中の近赤外分光撮像装置ESPRITはエシェル分光による高波長分解能を特徴としており、木星H3+オーロラの発光強度及びH3+イオン風の風速の導出を目標としている。これまでに、筐体の真空冷却試験と各機構系の組み立て及び常温試験は完了しており、今回新たに真空冷却試験を行った。分子ターボポンプと冷凍機により、検出器ボックスを30K・その他ラジエーションシールド内を100Kに真空冷却することに成功し、その状態でラジエーションシールド内に設置されたスリット切り替え機構・画像分光切り替え機構・フィルタータレット機構(すべてステッピングモーターで駆動)が正常に動作することを確認した。またエシェル角度調節機構に使用するピコモーターのみ動作温度が10℃~40°であることからラジエーションシールド外に設置し、ヒーターで動作温度を保つ設計となっているが、これに関してもヒーター、温度計及びピコモーターが適温を保ちながら正常に駆動することを確認した。今回の発表ではそれぞれの結果について詳述する。

(2)

[Name]

Hikaru Suzuki

[Title]

南極昭和基地ミリ波分光放射計を用いた高エネルギー粒子降下による南極昭和基地上空での中間圏オゾン変動の解析

[Abstract]

 地球中層大気では、磁気嵐や太陽プロトンイベント(SPE)による数keV-MeVの高エネルギー粒子降下(EPP)の影響で窒素化合物(NOx)や水酸化化合物(HOx)が直接生成される。これらの物質の増加により、オゾン(O₃)が触媒作用で破壊され、大気の放射バランス・力学・大規模循環が乱される。また、これらの物質は極域の冬に極渦の下降によって下層大気に運ばれ、下部中間圏・成層圏オゾンの破壊にまで寄与してしまう可能性があり、地上の気候にも大きな影響を与える可能性がある。自身の研究では、南極昭和基地に設置されたミリ波分光放射計を使用し、磁気嵐やSPEが発生した際の中間圏O₃カラム量の変化を調べている。地上観測は局所的な領域内でのEPPによる時間変化を詳細に調べるのに最適な方法である。また、ミリ波分光観測は他の地上観測法と比較し、昼夜連続観測可能な点、大気中エアロゾルの影響を受けにくい点など多くの利点があり、O₃連続観測に適している。本セミナーでは、背景知識であるO₃光化学反応や大気輸送を紹介し、現在までの研究進捗を報告する。