木星放射線帯電波のキャンペーン観測

2015年5月の本欄のブログで、私達は福島の大型アンテナを使って木星から到来する電波をキャッチし、その「放射線帯」を探っていることを紹介しました。また、「太陽紫外線の変化が木星放射線帯に影響を及ぼしている」ことも紹介しましたが、最近の研究から、太陽紫外線以外にも木星放射線帯に影響を及ぼす他の「何か」もありそうだ、ということも分かってきました。木星と同じく放射線帯が存在する地球の場合、放射線帯の変化は、「太陽風」と呼ばれる太陽から常に吹きつける電離したガス(プラズマ)の流れの変化によって大きな影響を受けることが良く知られています。一方、木星の放射線帯の場合、この太陽風の変化による影響はまだよく分かっておらず、木星放射線帯に変化を及ぼす「何か」の候補として、この太陽風の変化との関係が注目されています。

ところで、太陽風の変化が地球に影響を与えることはどうやって確認されたのでしょうか? これには太陽と地球の間に滞留し、地球に吹きつける太陽風を観測する科学衛星が大きく貢献してきました(米国のACE衛星など)。この科学衛星と、地球の周りを航行し放射線帯の様相を探る科学衛星で得られたデータを比較することにより、太陽風による放射線帯への影響を知ることが出来たのです。では、木星の場合も同じように調べれば良い? そうなのですが、これが容易ではありません。というのは、太陽と木星の間に停留し木星に吹きつける太陽風を観測するような科学衛星は木星に対しては存在しないのです。このため、時折木星に接近する探査機が貴重な機会を提供してきました(*)。

その貴重な機会がこの夏に久しぶりにやってきました。米国のJUNO探査機が木星に接近しつつあるのです。JUNO探査機は7月初旬に木星を周る軌道に入り、木星の人工衛星になりますが、現在はまだ木星に接近しつつあり、木星に吹きつける太陽風の情報を捉えています。JUNOが木星の人工衛星となった後の観測情報は勿論エキサイティング!です。ですが、その前に得られる太陽風の情報も木星放射線帯に影響を及ぼす「何か」を探る上でとても大事なのです。

私達は、このJUNO探査機がもたらす木星に吹きつける太陽風の情報と木星放射線帯の様相を比較するために、国内外の3種の大型アンテナを使ったキャンペーン観測を5月から6月にかけて行ってきました。1つ目の大型アンテナは私達の福島の方形パラボラアンテナ、2つ目は茨城にある情報通信研究機構鹿島宇宙技術センターの直径34mのパラボラアンテナです。この2つのアンテナを使った木星電波の観測では、波長(波の山から山、あるいは、谷から谷までの長さ)が、前者は90cm程、後者は13cm程の電波を捉えます。2つの波長での連続的な観測から、木星放射線帯の中に含まれる高速の電子の速さが、放射線帯全体でどう変化しているかについて情報が得られます。3つ目の大型アンテナは、直径45mのパラボラアンテナ30基から構成されたインド国立電波天体物理学センターの大型電波干渉計GMRTで、波長が20cm程の「電波で見た写真」を撮ることが出来ます。この観測から、高速の電子が何処にどの程度分布しているのか、また、連続的な観測から、分布がどう変化しているかが分かります。私達はこれら3種の観測を手分けして行ってきました。

果たして木星放射線帯に影響を及ぼす「何か」に太陽風は関係しているのか? どんな答えが出るのか、私達はワクワクしながら大量のデータの解析を進めているところです。

*:探査機による直接的な計測ではありませんが、地球付近で計測された太陽風のデータ等を用いて、木星に吹きつける太陽風の状態について数値計算を援用して推測する方法も研究されてきています。

(文責:三澤)

写真:インド国立電波天体物理学センターの電波干渉計GMRTの45mパラボラアンテナ群

写真(右):情報通信研究機構鹿島宇宙技術センターの34mパラボラアンテナ