日食で電離層に穴が開く現象を電波で観測
2016/3/9に東南アジアで皆既日食があり、PPARCでは千葉大学、インドネシアの宇宙機関LAPAN、サレジオ高専、北海道大学と共同で、日食時の電離層の変化を観測しました。電離層は、地球の大気が主に太陽の紫外線によってプラスの電気を帯びたイオンと、マイナスの電気を帯びた電子に「電離」している場所で、地表から70km-数100kmの高さに存在していいます。日食が起こると日中でも太陽の紫外線が当たらない場所が発生するので、太陽の紫外線のあたり方によって地球の大気がどのように影響をうけるのかを観測から調べることができます。電離層の様子は電波を使って地上から観測をすることができます。今回の観測では、電波時計の電波として知られている標準電波が電離層のD層で反射した電波を、インドネシアのポンティアナに設置した観測装置で観測しました。電波の観測は天候に関係なく行えますので、日の出の直後に始まった日食で電離層が薄くなり、日食が終わるにつれて元に戻る様子の観測に成功しました(グラフ参照)。詳しい観測データの解析はこれからですが、2009年の皆既日食でも同様の観測を日本と台湾で行い、そのデータを解析した結果は学術論文に発表されています。
電離層のD層は紫外線のほかに、太陽のX線、宇宙から降り注ぐ宇宙線や放射線帯の高エネルギー粒子によって電離を受けます。地球を有害な紫外線や放射線から守っている結果、D層ができていると言っても良いでしょう。このようなD層の性質を使うと、放射線帯の高エネルギー粒子が地球の大気に降り注ぐ現象を地上の電波観測によって調べることができます。PPARCでは、名古屋大学、国立極地研究所、アサバスカ大学、アラスカ大学と協力してノルウェー、アラスカ、カナダにも標準電波の受信機を設置して、高エネルギー粒子の降込み現象が発生する条件を研究しています。今年度日本から打ちあがるジオスペース探査衛星(ERG衛星)との共同観測も行う予定です。
(土屋史紀)