全天で最も強い電波星:太陽を探る

2015年5月の本Blogでは、福島県飯舘村に設置している私達の大型電波望遠鏡 (IPRT)では、木星から到来するシンクロトロン電波を観測し、木星の放射線帯にある高エネルギー粒子の性質を探っていることを紹介しました(こちら)。この木星起源の電波はテレビや携帯電話などの電波に較べてとても弱く、そのために大型の電波望遠鏡で観測する必要があることもお話しました。

ところで、唐突ながらここでクイズ第1問、このIPRTを用いた電波星:木星の観測は、一日の中で、いつ行われているでしょうか?「星の観測なのだから夜!」、、、正解です。「・・・あれ!?、光じゃない電波の観測なのに夜なの?」、と思われた方はいませんか? そう、確かに電波観測は昼でも出来るのですが、IPRTでの木星の観測は夜に行われます。この理由は、光と同じように、昼間は電波でも太陽が明る過ぎて、木星電波の観測に大きな影響を与えるからです。ただし、光では、昼間は太陽の光で空全体が明るくなり(光の散乱)、星が見えにくくなるのに対し、電波では空全体が明るくなるために木星が見えにくくなる訳ではありません。電波望遠鏡で見上げた空は、電波望遠鏡の正面方向が最も良く見えますが(主ビーム方向)、正面方向の周りにも所々に、ある程度良く見える方向が存在します(サブビーム方向)。このサブビーム方向に太陽が入り込むと、微弱な木星電波に見掛けの変化が生じ、正確な観測が出来なくなるのです。このため、木星電波の観測は夜(正確には日没後)に行っています。そして、日中は毎日、強力な太陽電波を観測しています。

今回は、この太陽から放射されている電波について紹介したいのですが、ここでクイズ第2問、木星電波の観測にとっては厄介な存在の太陽電波、木星電波に対してどのくらい強いでしょうか? 答えは、私達の観測している電波の波長(約1m)では、ざっと1万倍~1000万倍!の強さがあり、実は太陽は全天で最も明るい(強力な)電波源なのです。太陽の電波には二つの種類があります。一つは、光で見える太陽と同じ、6000度弱の太陽の表面(光球面)から放射される成分(熱的放射)で、その強度は木星電波の1万倍ほどで殆ど変化しません。もう一つは太陽面の爆発現象(フレア)などに伴って出現する成分(非熱的放射)で、その強度は強いものでは木星電波の1000万倍にも達し、ミリ秒~数日の時間スケールでの様々な変化を示します。この「非熱的放射」は、太陽の周囲に存在する数10万~数100万度の大気(コロナ)中を飛び回る高いエネルギーを持つ荷電粒子(プラズマ)が源になって放射されるもので、フレア発生時などにコロナ中で比較的短時間に次々と加速される荷電粒子の様相を反映しているものと考えられています。私達は、この粒子の加速が、どんな環境の下、どんなタイミングで、どのように起こっているかを、太陽電波の観測から探ろうとしています。

私達が現在、特に関心を持っているのは、太陽電波に含まれる微細な変化成分です。この成分は粒子の加速状態の基本的な単位を反映している可能性があります。この微細な成分を捉えるために「AMATERAS(あまてらす)」という名称の特別な装置(高時間・高周波数分解スペクトル分析装置)を開発し、IPRTと組み合わせて太陽電波の観測を行っています。

下図は、2013年11月7日に発生したフレアの際に、この装置で取得した約12分間の太陽電波の周波数スペクトル変化です。12.6~12.67時付近に出現した立て筋状の周波数スペクトル変化は3型、その後の12.67~12.76時付近に出現した、3型よりゆるやかな周波数スペクトル構造は2型と呼ばれる太陽電波のバースト現象です。

(三澤浩昭)

図.日本時間2013年11月7日12時34分に発生した太陽フレア時にIPRT/AMATERASで観測された太陽電波現象