木星の高エネルギー粒子を電波望遠鏡で探る

飯舘観測所(福島県相馬郡飯舘村)で稼働している飯舘惑星電波望遠鏡(通称:IPRT)は、その名の通り惑星から地球に届く電波を観測する望遠鏡として建設されました。電波は目に見えないので存在を実感しづらいものですが、一方、テレビや携帯電話など、情報のやり取りに使われているおなじみのものでもあります。夜空に光る惑星、星、銀河からは目に見える光だけなく電波も出ていて、その電波はいつも地球に届いています。ただし、その電波の強さはテレビや携帯電話の電波に比べると桁違いに弱く、これだけの面積(1023平方メートル)で電波を集めてようやく観測ができるようになります。

電波で惑星などの星々を観測することは、光の観測と何が違うのでしょう?

例えば、下の図を見てください。これは電波で撮影した木星の画像に、目で見える木星の写真を重ねたものです(明るいところほど電波が強い)。木星の周りの宇宙空間に電波の強い場所がある事が分かります。

木星の磁場に非常にエネルギーの高い粒子が閉じ込められた、放射線帯と呼ばれる場所があり、そこからシンクロトロン放射と呼ばれるメカニズムで電子が電波を放射していて、これが木星の周りで光っている電波の正体です。このように、電波を使うと、宇宙空間の高エネルギー電子を調べることができます。

放射線帯は、光に近い速さにまで加速された高エネルギー粒子(放射線)が存在している領域であることからこの名がついていて、太陽系の惑星を調べる限り、自分自身で強い磁場を持つ惑星(地球、木星、土星など)の周りには必ず存在しています。

さて、木星のシンクロトロン放射を電波望遠鏡で観測すると、地上にいながらにして木星の放射線帯を調べることができます。電波の強さと広がりから、木星には、地球の放射線帯と比べて大きさが10倍、高エネルギー電子の量も10倍、エネルギーも10倍、というとてつもない放射線帯があることが分かります。

地球の場合、太陽から太陽風によってエネルギーが運ばれてきて、外側から放射線帯に影響を及ぼすのですが、飯舘惑星電波望遠鏡で木星の放射線帯から放射される電波の強さを調べてみると、太陽の紫外線が増えた時に、放射線帯が変動することが分かりました。どうやら木星では、先ず、太陽の紫外線が惑星の超高層大気を加熱して、これが内側から放射線帯に影響を及ぼしているようです。(概要)

磁場を持つ惑星はその周りに放射線帯を持ちますが、その性質は惑星によって異なるこということです。私たちは、地球に比べて木星は磁場が強く自転が速いことが、この違いを生みだしていると考えています。このように、地球と他の惑星の違いを調べることは、私たちの活動の場である地球とその周辺の宇宙環境が現在の姿となっている条件を理解する助けになります。

飯舘惑星電波望遠鏡は、私たちが自らのアイディアで観測装置を改良でき、自由に観測したい天体に向けることができる専用望遠鏡です。現在もこの機動力を生かして、木星の他、太陽やパルサーなどの天体の電波を日々観測しています。

地球の周りの宇宙空間では、太陽で爆発現象が起こった後に宇宙嵐が発生しますが、この時、地球の放射線帯では高エネルギー粒子が急に増えて人工衛星に障害を与えることがあります。このため、宇宙嵐の発生と高エネルギー粒子の加速メカニズムを調べる研究は、現在、世界中で盛んにおこなわれていています。日本でも放射線帯を詳しく調べる科学衛星の打ち上げが予定されていて(ジオスペース探査衛星)、東北大学も観測装置の開発に参加しています。

(土屋史紀)