PPARCセミナー (2023/02/17)
PPARCセミナー 2023/02/17
発表者: 吉野富士香 (M1)
タイトル: ハワイ・ハレアカラT60望遠鏡に搭載する補償光学系の開発状況
アブスト: 本発表では、東北大学ハワイ・ハレアカラ観測所の口径 60cm 望遠鏡(T60)に搭載する可視補償光学 (AO) 装置の開発状況について報告する。本開発は、我々も参加する日欧合同BepiColombo水星探査機の周回観測(2025~2028)に対する地上観測支援活動を直近の目標としている。マウイ島ハレアカラ山頂(海抜3,040m)は、晴天率が比較的高くシーイングもよい(夜間>50%確率でFWHM<0.7”)ため、連続的なモニター観測を要請される太陽系天体の変動観測に適した観測所のひとつである。ここに設置されたT60はファイバー視野集積装置と波長分解能67000の可視高分散分光器を備え、遠隔操作によって主に太陽系天体の継続的観測に寄与している。本開発の適用対象の1つである水星は、アルカリ金属による外圏大気の存在が知られ、特に中性ナトリウムの共鳴散乱発光 (589.0 nmおよび589.6nm)が明るく地上からの高分散分光により観測が可能である。地球と比較して小さい水星磁気圏では、太陽風との相互作用により期待される変動の時間スケールが最短で数10分程度と短いことが予想され、外圏大気の生成要因の一つである磁気圏粒子のスパッタリングも同様の時間スケールで変動する可能性が考えられる。しかし、内惑星であり太陽最大離角が20度程度の水星では、日没後・日の出前に地上から観測できる時間は最大でも1時間程度に限られ、低空に位置することからシーイングの影響を強く受けて空間構造の変化を捉えることは困難である。BepiColombo探査機と協調して数10分程度の時空間変動をとらえるためには、日没直後・日の出直前の低高度に限られた観測だけでなく、日中・高高度での数時間におよぶ安定した連続観測が不可欠である。日中の観測では、日照による地表加熱に伴って地表面付近の大気ゆらぎが大きくなり、シーイングは〜2” まで悪化する。荒れたシーイングを補正しうる補償光学(Adaptive Optics)の適用は重要なポイントとなる。我々の開発したT60用可視AO システムは、140 素子の MEMS 可変型鏡(Boston Micromachine社)と Shack-Hartmann 波面センサ(TIS 社 DMK33UX287 と Thorlabs 社 MLA150-7AR)を用いた構成をとり、Windows PC (HP 社 AMD Ryzen 5PRO 4650G)を用いて最大 600 Hz の閉ループ制御を実現した。T60は小口径なので、可視帯でもその回折限界(0.21 “)に迫る観測をAOで実現しうる。1素子当たりの大きさは、望遠鏡の主鏡上で6cmとなり、ハレアカラ山頂における大気揺らぎの大きさ (波長500 nmで夜間15㎝、昼間8 ㎝)を十分にカバーする。このシステムを2022 年 3 月からハワイ現地のT60のカセグレン焦点に設置し、遠隔制御により AO 制御ソフトの開発と評価を行ってきた。波面補償計算には、 (1) 適切な打ち切り精度を設定した校正行列の特異値分解法、(2) 波面をZernikeモードに展開しモード別に制御する方法の二つがある。(1)では、3.5 等級までの自然星を対象とした観測で300Hzの安定した閉ループ制御を実現した。夜間に 2.5 等級の恒星を対象に行った試験観測(波長 590 nm )では、シーイング半値全幅 (FWHM) 3.2“の条件下で、 AO動作時にFWHM 0.69“を達成した。2023年2月には、日中の水星に対して安定したAO制御を実現するため、以下の実現を目指した改装・試験を行った。 (1) 日中観測の際に波面センシングを安定して行うため、波面センサ前に設置した視野絞で極力背景光をカットし、水星とのコントラストを高める。(2) 最大視直径10”程度の水星本体を用いた波面センシングを実現するため、波面センサのマイクロレンズアレイを変更して、マイクロレンズアレイ1個あたりの視野を広げる。(3) より高速・安定制御に向くZernike モード展開制御の実現と、特異値分解法との比較評価を目指す。本講演では、これらの状況、評価試験の結果、および今後の展望について報告する。水星以外の観測ターゲットの例として、木星衛星イオとその周囲に広がる火山噴出ガス起源大気の分布およびその変動、木星衛星エウロパから噴出する可能性がある物質の検出などがあげられ、太陽系天体を主軸とする可視〜近赤外域での観測を目指す。Galileo衛星は約5等級で、AOをこの程度以下の明るさの対象に対して有効に機能させることが目標となる。これらの木星系ターゲットの観測は、我々も参加する欧木星探査機 JUICE(周回観測: 2031~2037) との連動を目指す。なお本開発は、ハレアカラ山頂への展開を目指して開発中の 1.8m 軸外し望遠鏡PLANETS への応用も目標としている。1.8-m径の望遠鏡への適用で、視直径約1 “の対象を安定してdisk分解観測を可能とする。
発表者: 田中絵美 (M1)
タイトル: KAGUYA/LRSのオーロラキロメータ放射を用いたパッシブレーダによる月面地下探査手法の検討
アブスト: Lunar Radar Sounder(LRS)は月周回衛星かぐや(SELENE)に搭載された科学観測装置の一つである。LRSはサウンダー送受信部SDR、HF帯自然波動受信部NPW、VLF帯波形受信部WFCの3つのサブシステムから成る。本研究では、LRS-NPWによって得られたオーロラキロメータ放射AKRの反射エコーを用いたパッシブレーダーによって月の地下探査を行う手法を検討している。AKRは数10kHz~数100kHzと低周波であることから、アクティブレーダーよりも深い地下探査を探査できる可能性がある。現在、かぐや衛星の軌道データからAKRが月面に入射するときの入射角を示し、かぐやまで届く直達波と月表面での反射波、および地下での反射波の干渉パターンのシミュレーションを行っている。月面1層目での比誘電率から求められる損失角tanδの値の変化により、干渉パターンの振幅が変わることが分かった。今回は、シミュレーション結果と今後の展望について発表する。