パリ・LATMOS滞在記
2014年2月末から7月末の5ヶ月間、パリ第6大学にあるLATMOS(大気環境宇宙観測研究所)に滞在しています。頭脳循環プログラムによる長期海外派遣という非常に恵まれた機会を得て、火星超高層大気の研究の世界的権威であるFrancois Leblanc博士のグループと、モデル結合の共同研究を進めています。
まずはパリ第6大学についてですが、パリ第6大学はパリ中央の南東側(ノートルダム大聖堂やパンテオンの近く。ルーブル美術館も徒歩圏内)にあり、地下鉄7・10番線のJussieu駅を出てすぐ目の前にあります。
ここはいつ来ても工事をしています。パリ第6大学には、以前にも客員教授として呼んでいただいて1ヶ月間ほど構内のアパートに住んだことがあるのですが、工事のために迷路のように入り組んでいて、未だに思ったところに簡単に辿り着くことができません。そもそも正面玄関がどこにあるかもわからないので、LATMOSの人に聞いたところ、「この辺り」と写真左側の何もないところを指差されました。以前に訪れたLPP(プラズマ物理研究所)も玄関に看板がなかったのですが、このゆるい感じがフランスらしくていいですね。ちなみに、写真奥の立派な建物は事務・管理棟です。LATMOSは写真右側の建物の4階にあります。
次に共同研究を行っている方々についてです。
中央右から、Francois Leblanc博士、Ronan Modolo博士、Jean-Yves Chaufray博士です。Leblancさんはこのグループのリーダーで、研究職に就いている方です。火星や水星の外圏のモデリング以外にも、粒子計測器開発、衛星光学観測、地上光学観測など多岐にわたって活躍されています。Modoloさんは教育職の准教授で、年間200時間の講義をこなしながらも、火星・水星・ガニメデなどの電磁ハイブリッドシミュレーションで世界最先端の成果を出し続けています。Chaufrayさんはポスドクで、火星の外圏・電離圏のモデリングを行いつつ、衛星・地上光学観測データ解析においても複数の著名な成果を挙げています。彼ら3名は火星他の超高層大気分野で非常に有名な方々で、例えば米国の火星探査ミッションMAVENの会合に出ていると、至る所に彼らの名前が出てきます。
彼らと一緒に研究していると、彼らの研究成果だけでなく、その研究体制の作り方や、研究への姿勢などにも度々感銘を受けます。彼らの研究対象を並べると、一見節操無く何でもやっているように見えるかもしれません。ですが上述の研究対象は、全て彼らのグループが得意とする「スパッタリング」という物理過程を軸に展開されているものです。得意とする物理過程を軸にして、中性大気側とプラズマ側、シミュレーション側と観測側にそれぞれウィングを伸ばしているので、成果に掛け算効果が得られ、また互いの議論や情報交換が非常に有意義なものとなっています。
彼らの研究への姿勢も非常にストイックです。私がいだくフランス人のイメージは、以前は「おしゃべり第一」でした(失礼)。朝9時にミーティング開始と言ったら、9時10分頃にぼちぼちと集まってきて、そこからコーヒーを飲みながら会話を楽しんで、しゃべって、しゃべって、9時30分過ぎ頃に「じゃあ始めようか」と言って、そこからはミーティングでもしゃべり倒すというものでした(それはそれで楽しいですが)。ですが彼らは、私の期待を見事に裏切っています。彼らも例に漏れず話し好きなパリジャンなので、朝イチに会った時は楽しそうに話すのですが、そこからはもくもくと仕事を続けます(ちなみに半径1メートル以内に3人がパーティション無しで座るという超密集環境です)。昼もサンドイッチをかじりながら仕事を続け、休憩無しで夕方に突入します。夕方になるとさすがに疲れてきて、雑談を始めるのですが、その雑談の内容は火星かシミュレーションがほとんどです。研究が本当に好きなんだなあと感心すると同時に、火星好きでありシミュレーション好きである私は、同じ空間をシェアできる幸せを感じています。
一方で、彼らは社交的でもあり、国内外から来客が頻繁にあります(今も隣でアルゼンチンからの来客と議論しています)。ですが文章が長くなってきたので、これはまたの機会に書こうと思います。(寺田直樹)