欧 木星・氷衛星探査機 JUICE 打ち上げ迫る [現予定: 日本時間 2023/4/13夜]
欧州宇宙機関(ESA)の木星・氷衛星探査機JUICEの打ち上げが数週間後に迫ってきました。
「L-Class」と呼ばれるESA最大級のミッションです。
順調に進めば、日本時間で4月13日夜、南米のギアナ宇宙センターから打ち上げられます。
2031年に木星系に到着し、2034年にガニメデを巡る初の氷衛星周回探査が予定されます。
◉ ESA: Project web / Twitter
◉ JAXA: Project web / Twitter
日本も、いくつかの機器を提供して参加しており、打ち上げイベントを企画中です。
◉ NHK Eテレ サイエンスZERO JUICE特集: 4/9日23:30、4/15土11:10(再)
◉ JAXA 「オンライン打ち上げイベント」: 4/13木 夜。打ち上げは21:15(JST)頃の予定。
[東北大の貢献]
東北大は、電波・プラズマ波動観測器 RPWI (RadioPlasma Wave Instruments) に参加しています(代表: 笠羽康正教授)。惑星プラズマ・大気研究センターと地球物理学専攻のメンバーが、高周波受信部 (アンテナ:RWI、レシーバ:HF) を中核とした重要機能を提供しました。
「木星周回軌道で初めて、電波の方向探知・偏波の観測を可能とする」ことで、木星や氷衛星群が放つ様々な電波、そして衛星からのその反射波を的確に捉えます。木星の強大な磁気圏とその衛星群への影響、オイロパ・ガニメデ・カリストといった「氷衛星」の大気・電離圏と氷でできた地殻、そしてさらにその下に潜む「地下海」にまつわる数々の発見をもたらすことを期待しています。
◉ RPWI-Japan 紹介 (PDF, JAXA-page)
◉ RPWI-Japan 記事 「みんなでふたたび木星へ,そして氷衛星へ ~電波・プラズマ波動観測器RPWIの飛翔へ~」 (PDF, 惑星科学会誌)
[RPWI-Japan: 装置の沿革]
日本側は、以下の衛星・探査機群の搭載装置を発展させてこの探査機に乗り込みました。特に、本格的な日欧合同チーム (全体責任者: 笠羽康正教授) となった BepiColombo水星探査機が、木星への道も切り拓くことになったわけです。
◉ 月探査機 Kaguya に搭載した レーダー観測器 Lunar Radar Sounder ((成果の一例: 月の地下に空洞を発見 (JAXA-web)
◉ ジオスペース探査衛星 Arase に搭載した 電場・プラズマ波動・電波観測器 Plasma Wave Experiment ((成果の一例: 地球の放射線帯で「電波の通り道」を解明 (東北大)
◉ 日欧水星探査機 BepiColombo 搭載した 電場・プラズマ波動・電波観測器 Plasma Wave Investigation ((ESA-JAXA水星探査機BepiColombo: 2025年から水星周回観測に入ります。)
[東北大からの主な参画]
◉ 笠羽 康正 教授 (惑星プラズマ・大気研究センター)
RPWIの日本側代表。JUICEミッションの初動時から参加(当時、JAXAに所属)して、日本側の機器参加の道筋をつけてきた。
RPWIの開発に先行した日欧合同水星探査機BepiColomboではPWIの全体代表、放射線帯観測衛星AraseではPWEの元代表、現在副代表。
◉ 三澤 浩昭 准教授 (惑星プラズマ・大気研究センター)
RPWI高周波受信機能の鍵、アンテナ部(RWI)の電気系責任者。初めて木星で「3軸のアンテナ」を展開することで、初の方向探知・偏波観測を木星で実現する。東北大の地上電波望遠鏡(飯館・蔵王など)の全体責任者でもある。木星系の観測は、東北大では以前から地上からの電波望遠鏡(飯館・蔵王など)と光赤外望遠鏡(ハワイ・ハレアカラ山頂)で行ってきており、本学にとっては大家寛 名誉教授、小野 名誉教授の松明を継ぐ。
◉ 土屋 史紀 准教授 (惑星プラズマ・大気研究センター)
RPWI高周波受信機能のもう一方の鍵、高周波レシーバ(HF)の開発責任者。2014年-2023年と活躍したJAXAの紫外線・極端紫外線望遠鏡衛星Hisakiでは、木星のサイエンスを代表して活躍。JUICEでその発展を図るとともに、Hisakiの後継ミッション「紫外線望遠鏡衛星計画 LAPYUTA」の検討責任も担う。三澤と並んで、東北大地上電波観測の主。
◉ 熊本 篤志 准教授 (地球物理学専攻 [宇宙電磁気])
RPWI高周波受信機能を用いた挑戦的な「パッシブレーダー機能」の責任者。強力な木星電波の反射波を「レーダー」として使い、オイロパ・ガニメデ・カリストの氷でできた地殻、そして地下に潜む「海」を探る。月周回探査機Kaguyaのレーダー観測を担い、また日本が進める惑星のレーダー探査観測検討のほぼ全てで検討に加わってきた。地球物理学専攻側の「地上電波観測」の主でもある。
◉ 加藤 雄人 教授 (地球物理学専攻 [宇宙電磁気])
RPWIに日本側が提案した「S-WPIA(ソフトウェア型波動-粒子相互作用解析装置」の担当。この機能は、地球放射線帯観測衛星Araseで初実現した機能で、RPWIだけでなく他の複数機器のデータをまとめて探査機内で高次処理する。「木星と氷衛星をつなぐ磁力線上で何が起きているか?」を解明する鍵となることが期待されている。
他にも、北 元 講師 (東北工業大) や、木村 智樹 准教授 (東京理科大) など、木星及び惑星の電波観測を支えてきた方々が参加し、欧州のメンバーとともに総動員でこのミッションを支えていくことになります。
[RPWIの “打ち上げ前準備”]
無事打ち上がると、一週間後 (4/20木) には、我々のアンテナ部(RWI)が搭載された10.6-mに及ぶ長大な「ブーム」の伸展が行われます。
そして、次の日 (4/21金) には、RWIを構成する6本のアンテナ (長さ1.25-m) が、6方向に延ばされます。
RPWI-Japanのメンバーは、打ち上げには立ち会いませんが、その最大の理由はこの「アンテナ伸展の確実な実施に備えた準備のため」です。
日本からの遠隔接続で、リアルタイムに状況を確認し、Go / No-GO を伝えることになります。
これが成功して、初めて「我々にとっての木星の旅」はスタートします。