東北大×仙台市天文台アウトリーチイベント(2024/10/07-11/1)

10月から11月にかけて仙台市天文台と東北大理学部のアウトリーチイベントとして、仙台二華中学校の自然科学部にて研究観測体験プログラムを実施しました。
惑星大気の中川先生を中心に、PPARCからは三澤先生、堺先生、佐藤さん、松下さん、能勢が参加しました。プログラムでは自然科学部の生徒19名が3つの班に分かれ、それぞれひとみ望遠鏡や火星探査機のデータを使ってどんな謎を解明したいか考え、実際に観測・データ解析に取り組みました。活動日数は10日ほどですが、どの班も積極的に取り組み最後は簡単な発表も行いました。各班の様子について担当した学生からレポートします!(文責:能勢)

<A班 担当: 佐藤晋之祐>
A班は「惑星は球形なの?」という疑問を出発点に木星と土星の形状を調べました。仙台市天文台ひとみ望遠鏡を使用して木星と土星の撮像観測を行い、画像データを元に赤道方向と極方向の長さを計測しました。惑星の半径は定数として知られた値が既にあり、赤道半径と極半径も文献値が存在します。A班の生徒さんたちは、「既知の数値を自分たちの手で計測し考察する」という難しいテーマを選びました。

A班全員で木星と土星の赤道方向と極方向の長さを計測し、どちらも赤道方向に引き伸ばされた形状であることを見つけました。なぜ赤道方向に引き伸ばされるのか、重力と遠心力の大きさを計算し考察しました(学校では未学習の内容ですが、大変よく頑張りました)。木星や土星のように高速(だいたい10時間ほど)で自転する惑星では、その強い遠心力によって赤道半径の方が長くなることが知られています。重力と遠心力の大きさを計算することで、おおよその効果を見積もることが可能です。A班の生徒さんたちはエクセル表を使って計算を行い、赤道方向に引き伸ばされた形状が遠心力のせいであることを確かめました。

担当した私自身は木星を研究していますが、木星や土星は赤道方向に長いことは当たり前だと思い、自分の手でそれを確かめようと思ったことはありませんでした。A班の生徒さんたちの素朴な疑問と着眼点には本当に驚かされました。天文台での観測はあいにくの天気で、木星と土星の撮像は居残りをした大人たちが取得することになってしまいましたが、それでも明るく楽しそうに研究活動に取り組む姿が印象的でした。極めて短期間でしたが、観測データの解析から遠心力を使った考察までやり遂げることができたことも素晴らしいと思います。今回の活動を通して、宇宙や惑星にさらに興味を持ってもらえたら嬉しい限りです。

PCソフトを用いて木星の大きさを計測する様子

<B班 担当 :能勢千鶴>

B班は惑星の大気の動きや組成に興味を持ち、ひとみ望遠鏡による分光観測や火星着陸機の観測データを使って、大気の成分や風速、気温の解析に取り組みました。仙台市天文台での観測の際には、初めて見るひとみ望遠鏡や初めて入る観測室に対して興味津々で、目を輝かせて楽しそうな様子がとても印象的でした。その姿に私もワクワクさせられました。

生徒たちは元気いっぱいで、興味の幅も中学生とは思えないほど広く、ときには議論が発散することもありましたが、上級生を中心に役割分担をしながらデータを丁寧に見つめ、話し合いを進めていくうちに、次第に議論がまとまっていきました。限られた時間の中で、彼らの大きな成長を感じることができました。

観測室で望遠鏡を制御中

ひとみ望遠鏡を一生懸命撮影中

観測モニター

最終的には、火星着陸機Insightから得られた約1年分のデータをもとに、火星の気温や風速の特徴を地球と比較しつつ、季節ごとの変化を捉えることができました。短時間の活動のために、やりきれなかった部分もあるかもしれませんが、今回の経験を通じて、宇宙や惑星への興味がさらに深まることを願っています。そして、また仙台市天文台で観測にチャレンジしてほしいです!

 

<C班 担当: 松下奈津子>
 C班は、現状で地球のみに生命が存在していることに疑問を持ち、各惑星環境を特徴付ける水の有無や大気の組成を調べることにしました。生徒さんは、火星と金星の主成分が二酸化炭素であること、木星型惑星の主成分が水素であることは事前に知っていましたが、それ以外の成分は知らない状態でのスタートでした。研究の手法として、2024年10月11日と10月27日に、仙台市天文台のひとみ望遠鏡を用いて木星・土星・海王星の可視分光観測(中分散、中心波長 600 nm)を行いました。また、 UAE の火星探査機 EMM のデータを用いて、火星の四季ごとの表面気温、表面の氷、大気中の氷雲と砂嵐の分布の特徴を調べました。

ひとみ望遠鏡で観測した木星と土星の分光データ。生徒さんのアイディアで重ねてみることに…!

 天文台データの解析では、木星、土星の本体、海王星には波長 619 nm 付近にV字型のへこみが見られた一方、土星の環にはそれが見られないことに気付きました。この吸収線が各惑星の大気組成に共通して存在するメタンであると分かると、土星と木星のスペクトルを重ねてその深さが異なることを発見し、土星と木星でメタンの存在比に違いがあるのではないかと考察しました。また、火星データの解析からは、火星の表面温度と氷分布が太陽の当たる位置に直接影響を受けている理由として、火星の大気が薄いので全球的な温室効果が期待されないためだと考えました。さらに、火星の春は赤道面から日射があるため、高緯度では北半球も南半球も均等に低温になると予想されるにも関わらず、北半球では氷雲があり南半球には氷雲が発生しにくいことから、空気中のダスト量が氷雲の発生に関係していると考えました。最終日には中川先生の講義を聞いて、自分たちが取ったデータの吸収線の正体を理解するとともに、太陽系天体の大気組成に規則性があることと、それでも大気進化に関して未解明な部分が沢山残っていることを知りました。

 私は、仙台市天文台で太陽系惑星の観測をすることが初めてだったので、普段の研究(極端紫外)とは異なる波長で外惑星の分光を行い、その結果を比較するという経験が、私自身にとっても非常に面白く大きな学びになりました。今回一緒に活動した中学生の皆さんは、「色々な惑星を見比べたい!」という好奇心が旺盛で、全てを体系立ててまとめるには少々時間が短かったのですが、目の前のデータをよく観察して論理立てて考察する力が光っていました!また、最終日に各自の得意なことを活かして短時間で成果スライドを完成させたことに、とても感心しました…!中学生の皆さんの明るさに触れ、私もこれからの研究を頑張りたいと思います。