宇宙生命実験装置 TU BioCube: 試作1号機の熱真空試験準備 (2021/4/25)

(文責:笠羽)
東北大では、2020年頭から ”新領域創成のための挑戦研究デュオ”プログラムの中で、「Tohoku Univ. Biosatellite Cube [TU BioCube]」の開発を進めています。
これは、「超小型CubeSat衛星規格」に基づいた汎用Unit(1U)を単位とした、生命維持装置を備えた宇宙環境曝露実験の標準ユニットで、スペースステーション等での回収実験と単独飛翔する超小型衛星の双方を目指すものです。宇宙環境での生命の持続可能性の検証に向けた新たな研究インフラとしなることを期待しています。
国内の宇宙植物実験研究者とともに、東北大の生命(日出間准教授など)、工学(桒原准教授など)、流体研(永井教授など)+理学(うちですね)のスタッフ、およびうちのメンバーを含む学内各所のボランティア院生・学部生諸氏の貢献で進んでいます。会合は隔週火曜1630から。参加ご希望の方々はいつでもご連絡ください。
小型衛星TU BioCubeの開発着手 [Frontier Research in Duo(FRiD)]:
http://aerospace.gp.tohoku.ac.jp/frid-biocube/ (2020/1/10金)

PPARCのお役目は、大中小の探査機・衛星、大学規模の超小型衛星、観測ロケット・気球・地上観測での開発を生かした、センサー検討・開発、真空など耐宇宙環境といった方面の支援です。
例えば、必要となる気圧・温度などのセンサー類、これを活かした制御システム、真空封じ、窓・コネクタ構成など、欧木星探査機JUICEなどの大型開発、来年打上予定の観測ロケット、南極展開予定のオーロラカメラ、ハワイ望遠鏡に装着予定の赤外線分光器・・・・といったものの実績を生かしています。
我ながら 「こうしてみると、いろいろ接点はあるもんだ」 という感想です。

コロナ禍の中でなんとか進めてきた2020年度製造の「試作1号機」 (上写真の上側)。これが真空中 & 温度変化に耐え、1〜6ヶ月の気圧保持が可能か確かめるべく、いわゆる「熱真空試験」を来週から実施します。PPARC実験室に転がっていた「昔の赤外線カメラ」(天文・市川名誉教授からのいただき物。JUICE用環境試験に流用していた。)を使って、室温での気圧保持は確認済ですが、宇宙空間に暴露された状態、すなわち真空下で広い温度範囲(最悪ケース: +60〜-40 degC)にも耐えることを、今の段階で確認しておかないと先の設計ができませんので。
幸い、ゴールデンウィークを含む2週間、JAXA宇宙研の熱真空試験施設を使わせていただけることとなり、先方で缶詰となることとなりました。この間の私の講義は相模原から実施。同行する学生メンバーも相模原から講義に出席、また物品持参しての実験等継続となります。このあたりの融通無碍さは、「remote works環境さまさま・・・」と言えなくもありません。


準備として、「遠隔・自動制御」で寝ながら状況把握できるよう、ここまでの各種試作・製作・試験で大貢献してきたM1永田くん(中写真、右側)・・・本業は、現在製造中の1.8-m望遠鏡 & 赤外線分光器開発!・・・の引き続きの大活躍で、いつでもどこからでも状況モニターができるようになりました。これで仙台に残るメンバーを含め、「24時間戦う」ことを回避しつつなんとかやっていくことになります。
宇宙研・熱真空Chamberに適合する「ワイヤハーネス類」は、B4 吉野さん(中写真、左側)のお手製。「ハーネスこけると、真空中なので直せないよー。断線はまだいいけど、ショートは下手したら火事だよー。配線間違えると、つないだ瞬間に壊れるよー。ハーネス、うっかりすると衛星・探査機を全損だってさせられるよー」と茶化していたところ、 上写真をのたうつワイヤー類を、誰もが驚く高級クオリティーで仕上げていただけました! ぱちぱちぱち! これまで使っていたハーネス類と色も揃え、またコネクタとの接続部をしっかり固定していただけるなど、注文以上の出来です!
こうした実験は、そこそこの人数が関わり、そもそも自分自身が忘れてしまうので、「わかりやすいこと」「間違いにくいこと」への配慮、究極的には「周りの人への親切心! そしていろいろな状況に対する想像力!」という、人間としてとても大切なものが求められます。おふたりとも「さっすがー」というところですね! 本業とは共通点も多いとはいえ一風違うお仕事ですが、「似てるけど非なることをもう1つやる」のは、「できることを違う視点でやる」ことになるため、自分の視野・能力の飛躍につながります。うまく活かしてもらえると幸いです!

移動を控え、必要物品の製造と梱包作業も終え(下写真)、試験へと向かうことになります。連休中の宇宙研で誰かを捕まえるのは難しかろうと、必要そうなものを全て詰め込んでみたところ、そこそこの量となりました。遠隔会議は山程やっているとはいえ、宇宙研、というか神奈川に物理的に行くのは1年半ぶりなわけですが、「今のあのあたりでは、ご飯はどこで食べたらいいのだ?・・・」といったことも含め、慎重に実施してくる予定です。